最初で最後の一夜

5/11

2608人が本棚に入れています
本棚に追加
/53ページ
「ごめんねっ、紫、葵……っ」  お母さんがボロボロと泣き出す。 「子どもにこんな負担をかけるなんて、ダメな親で……っ」 「そんなこと言わないで、お母さん」  私はぎゅっとお母さんの手を握りしめる。 「お母さんがずっと頑張ってきたこと知ってるよ。いっぱい苦労して支えてくれてたこと、ちゃんとわかってるからね」 「うう……っ」 「私はそんなお母さんのこと、ずっと尊敬してたよ」 「紫……っ!」  お母さんは立ち上がって私を抱きしめ、わあわあ泣きじゃくった。つられて私も涙が溢れた。  そんな私たちをお兄ちゃんも優しく抱きしめ、真っ赤になった目で私を見つめる。 「紫、約束してくれ。絶対幸せになるんだぞ」 「うん、ちゃんと幸せになる」  それから三人で抱き合い、涙が枯れるまで泣き続けた。  すぐに三谷須さんに返事をした。  大喜びした三谷須さんはすぐにでも籍を入れたいと申し出たけど、流石に私の大学卒業までは待ってもらうことにした。  これでいい、これで何もかも上手くいくはず。  不安もあるけど、三谷須さんが私を好きというのは本当のようだし、多分大丈夫。  結婚までの間に少しずつお互いを知っていけばいいよね――。
/53ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2608人が本棚に入れています
本棚に追加