最初で最後の一夜

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 火が付いた煙草を踏んで消しても、吸い殻は拾うところは意外だなぁと思った。 「それ、本気で言ってる?」 「まあ、そうですね」  自分でもおかしなことを言ってる自覚はある。  でも、思いついてしまったのだ。 「やっぱりなんかあった?」 「……実はですね」  お兄ちゃんの親友だし、別に言ってもいいか。きっといつかは耳に入ることだろうし。  お兄ちゃんに気を遣わせるより、自分から話した方が気楽かも。  私は父の借金を免除してもらうため、金融会社の社長と結婚することになったと話す。  いつもは飄々としているけど、キリさんは珍しく表情に動揺が見えた。 「……紫はそれでいいの?」 「はい。でもやっぱり、一度くらい恋がしたかったなぁと思いまして。 だからせめて、私の初めてもらってくれませんか?」 「なんで俺?」 「だってこんなこと頼めるの、キリさんしかいないもん。モテるんだしそこそこ遊んでますよね?」 「んーー、それなりに?」  やっぱり否定しないんだ。でもそっちの方がむしろ安心するかも。  一人で傷ついていた子どもの私はもういない。 「つーか紫、俺とキスできんの?」 「できますよ」  元々好きな人だったし。顔は今でも好みど真ん中だし。  なんて思ってたら、触れるだけのキスをされた。ファーストキスは微かに煙草の味がした。 「――これよりもっと激しいやつだぞ?」
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