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アリス、野球選手になる
彰寛は、心配していた。それというのも…。
「最近おかしくないか?」
「ホントにねぇ、ちっとも家にいない…。恋でもしてるのかしら?」
妻の紗衣が答えた。流石に夫婦なので、すぐに話が通じる。ちなみに、紗衣と彰寛は、7歳歳の差がある。紗衣が、アリスを産んだのは、20歳なので、紗衣はまだ39だ。
「こ…恋? 相手は誰かわかるのか?」
「そうねえ、裏のおばあさんの所のか、表通りのマンションにもいるらしいし…」
「いる?」
「オスなのかは、わかんないけど」
「オスって…。何の話してる?」
「え…シロの事でしょ」
シロは、神谷家で飼っている猫だ。
「誰が猫の話をしてるんだ。アリスの事だよ」
「ああ、アリスね。それこそ、年頃てすからね。家にいなくても、不思議じゃないでしょ」
「それは、そうかもしれないが…。今だって。何やってるか知ってるか?」
「ちょっと走ってくるって」
「だろ」
「ダイエットでしょ」
「それにしちゃ、度を越してる。まるで、スポーツ選手のような鍛え方だよ」
「そうねえ。喋り方も、時々、アリスちゃんじゃないみたいな…。ひょっとすると…」
「まさかな」
二人は、何かに思い当たった。
それから、30分ほどして、アリスが帰って来た。
「どこまで行ってたんだ?」
「隣の市かな。毎日、最低でも10キロは走らないと」
「あんた誰なんだ?」
アリスは、彰寛の顔を見た。そして、ニヤリと笑った。
「気づかれたか」
「やっぱり…。アリスは憑きやすい子だった。最近はなかったのに」
「確かに。居心地がいい」
「勝手な事を」
すると、アリスは、いきなり、その場に頭を擦り付けた。土下座をしたのだ。
「頼む。そんな長い間じゃない。シーズンが終わるまで。あと、5ヶ月くらいだ。その間だけ、見逃してくれないか。願いを叶えたら、体は、娘さんに返すから」
「シーズン? シーズンて何の?」
「お父さん!」
紗衣が、呼びに来た。
「ドンジャラとかいう人から、電話ですよ」
「ドン…何だって?」
「球団ですって」
「球団…ああ、野球か!」
ようやくわかった。そう言えば、アリスは、デンジャラスに仕事に行ったのだった。
「あの時か。そうか。野球のシーズンか…」
「お父さん、電話!」
デンジャラスの代表からの電話も、驚くべきものだった。
「アリスさんを、うちの球団の支配下選手として、登録する事になりました」
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