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アリス、2軍の試合に出場する
「あーあ、何で、オレが2軍なんだよ」
文句を言いながらも、楽しそうだ。鈴木は、2年目のキャッチャーだ。アリスと並んで、ブルペンに向かいながら
「ホントに…あの番…工藤さんなんですか?」 「ああ、そうだ。そういや、お前はオレか死んだ後に入って来たんだったな」
「ええ。工藤さんが亡くなったのは、3年前だから…。でも、工藤さんの事は、色々伝説なってるから」
「はっ! どうせ、いい話じゃないだろ」
その通りなのだが
「いや、そんな…。それより、工藤さん、ずっと、球場に? 地縛霊ってやつですか?」
「何か聞こえが悪いな、地縛霊って。まあ、そうなんだろうけど」
「どうするんですか? ずっと、彼女に取り憑いているわけにも、いかないでしょ」
「まあな。さすがに、気の毒だし。とりあえず、今年度優勝できれば」
「本気で言ってるんですか? 何年優勝から遠ざかってると思います? それどころか、上位にも入れない」
「お前なあ! そういう意識がダメなんだぞ!」
「工藤さん! 大きい声出さないで下さいよ。それでなくても、注目されてるんだから」
「ああ、そうだな。ま、気にするな」
気にするなって言われても…と、鈴木は思った。
その日、いきなり、アリス(というか工藤だが)の出番がやってきた。0対0のまま、7回裏まで、進んだ局面で、7回にデンジャラスが、1点を上げた。ピッチャーのところで、代打を送ったので、ピッチャー交代だ。5回くらいから、ブルペンでピッチング練習するアリスの姿は、観客の注目の的だった。2軍の試合なのに、神谷アリスを見る為に、千人くらいの観客が集まっていた。
「中々かわいい…」
「スタイルいいな」
「コントロールも悪くないみたい」
「一体どこから、あの子を連れてきたんだ?」
「あのフォーム、誰かに似てる」
「番長…」
「そうだ。工藤だ。工藤大地にそっくりだ」
ピッチャーが、神谷アリスに交代する事が告げられると、球場は、ワッと沸き立った。それに対して、まったく、臆する事なく、堂々とピッチャーマウンドに立つアリス(工藤)。
「すごいな…さすが…」
鈴木は思わず、呟いた。鈴木は、一球目をアウトコースに外れるボール球を要求した。打席は、クリーンナップを逢える。慎重に、様子を見ていきたい。が、アリスは首を振った。球は走っている。任せてみようと、鈴木は思った。
アリスは、いきなり、インコース、胸元をつくボールでのけ反らせた。アリスは、笑顔を見せた。大した度胸だ。その後も、攻め続け、4球で内野ゴロに打ち取った。
そして、4番に回った。アリスは、際どいところをつきながらも、フォアボールを与えてしまった。やっぱり、緊張しているのだろうか。
が、アリスは気にしていないように、苦笑いを浮かべている。そして、次のバッターは、3球目を引っ掛けて、内野ゴロ。どうも、アリスの投げた球の球威に押されたらしい。球が、走っているのだ。ダブルプレーで、あっけなく、チェンジになった。
その頃、相手チームのベンチでは、アリスの事で、持ち切りだった。
「女の子、それも、か弱そうな娘を選手登録って、何の冗談かと思ったけど」
「いや、中々やるな、あの子」
「言うてる場合か!」
「いや、誰かに似てるで、あの子」
「誰か?」
「そうや。工藤や!」
「ひっ!」
瀬尾というキャッチャーが悲鳴を上げた。以前に、乱闘担って、胸ぐらを掴まれた事がある。それから、工藤の事は、トラウマになっている。
「フォームなんか、そっくり」
「そうかなあ」
「生まれ変わりとか?」
「アホか。工藤が死んで、まだ3年やぞ」
「3歳って事はないわな」
この日、アリスは、2回をピシリと抑えた。監督は、アリスを1軍に上げる意向を示した。
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