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アリス、遠征に参加する
発車のベルが鳴っていた。東京行きの新幹線が出発した。デンジャラスの選手たちは、明日から、在京チームの球団と三連戦だ。
「乗り遅れなかったんですね」
アリスの隣には、一ノ瀬が座っていた。工藤は、色々伝説を残したが、遅刻が多くて、乗り物に乗り遅れたという事も多かったのだ。
「お前か」
「向こうに着いたら、取材陣に取り囲まれますよ」
「注目されるのは、慣れてる」
「今回、注目を浴びてるのは、神谷アリスですがね。そうだ、彼女と話をさせてもらえませんか?」
「何で?」
「興味がある。工藤さんに体を乗っ取られて、どう思ってるか」
「ふうん。ま、いいや。ちょうど、オレは寝たいところだったし」
なるほど。片方が前に出て、片方は寝ている状態になるわけだ。多重人格者みたいな感じか。知らないけど。
すると、明らかに、アリスの様子が変わった。男らしい座り方が、女性らしくなり、オドオドキョロキョロし始めた。
「わかりやすいな」
「な…何?」
「いや。あの…あなたは、どうなんです? 工藤さんに体を乗っ取られて」
「どうって? そりゃあ、迷惑だけど。やたら、鍛えさせられて…もう、体中痛いし、筋肉痛で」
「ああ、そうだよね」
「でも、私…。野球の事、全然知らなくて。調べたら、工藤さんてスゴい人なんですよね」
「まあね。最多勝とかゴールデングローブ賞取ってるし。性格には難があるんだけど」
「私…私なんか、取り柄のない人間だから…役に立つんだったら、それはそれで嬉しい」
「マジで?」
一ノ瀬は驚いた。
「まさか、そんな協力的だとは…」
「だって、工藤さん土下座したんですよ。優勝するまで、体を貸して欲しいって」
「工藤さんが? 確かに、それは中々見た事ない…」
「おい!」
「わっ、ビックリした。何で、急に出てくるんですか?」
「もう、いいだろう」
きっと、恥ずかしかったのだろうと、一ノ瀬は思った。そのまま、工藤は席を立った。トイレにでも行ったのだろうと、一ノ瀬は思った。が、しばらくすると、隣の席に別の選手がやって来た。
「神谷さんが代われって」
見ると、アリスは、鬼頭の隣に座って、何か話しかけていた。自分は割けられているのだろうかと、一ノ瀬は思った。
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