アリス、中継ぎになる

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アリス、中継ぎになる

 アリスに出番がやって来たのは、三連戦の二日目だった。  一日目は、先発投手が、踏ん張って完投して、3対0で勝利した。それでも、試合途中から、ピッチング練習をしているアリスは、注目の的だった。が、本人は動じる事もない。  二日目。3回裏に、先発投手が、早々に崩れた。5点を失った。そして、ワンアウトで、一塁二塁にランナーの場面で、ピッチャー交代が告げられた。  マウンドに、アリスが、姿を表すと、球場内はどっと沸いた。アリスは、落ち着いた様子で、次のバッターを内野ゴロに打ち取った。ゲッツーで、一瞬にしてチェンジ。 「スゴいメンタルだな」 「あの女の子、中々やるなあ」  スタンドの観客たちは、そっそく、アリスの評価を始めた。  さて、3回裏の追加点のチャンスを潰した事で、試合の流れが変わったらしい。4回に、デンジャラスが2点を返した。その口火を切ったのは、アリス自身だった。ツーアウトを取られた後に、ピッチャーに打順が回った。 「元気がない! オレが活を入れてやる!」  そう宣言して、打席に入ったアリス。結果は、ボテボテの内野ゴロだったが、アリスは、一塁にスライディングをした。すると、その気合に押されたのか、少し送球が反れた。結果、一塁セーフ。 「意外と足が早いんだよな」 「いや、今のは、気合でしょ」  チームメイトは、もはや、アリスの事を「工藤大地」としか思っていない。  動揺したのか、次のバッターの一球目後甘くなった。高めに浮いた球を、一番打者が、ライトスタンドに運んだ。2ランホームランだ。  その後も、デンジャラスは、5回に1点、7回に2点と小刻みに点を返していった。5対5の同点で迎えた8回裏。それまで、中継ぎのアリスに完璧に抑えられていた相手チームだが、先頭バッターが、ヒットで塁に出た。すると、ピッチャーの機嫌が悪くなった。 「打ち取ったと思ったのに!」  そして、ショートに向かって 「あれは取れただろ!」  塁に出た相手チームの選手は、思わずニヤニヤしている。そうだ。工藤はこういうやつだったと思っているのだろう。今や、相手チームの選手たちも「あれは工藤だ!」と思い始めていた。ピッチングスタイルから、言動、すべてが、工藤だ。  デンジャラスの選手たちは、萎縮している。元々、工藤以外は、大人しい選手が多いのだ。一塁が、ピッチャーにボールを返しながら 「しまっていこう」  声をだしたが、やはり、元気がなかった。次は四番で、最近当たっている米倉だ。ランナーは、リードを取った。が、その瞬間。 「アウト!」  一瞬、何が起こったのか、わからなかった。が、すぐにタッチアウトになったのだと、理解した。 「まさか…隠し玉…」  相手チームが、全員愕然としている。隠し玉を成功させた一塁手より、アリスの方がドヤ顔している。 「工藤さんの演技力…」  米倉が、ポツリと呟いた。 「あの人…そういや、得意なんだよな…」  マジックみたいなものだ。派手なアクションでひきつけ、ボールを返球していない事を気づかせない。  それで、ケチがついたのか。続く米倉は、2ベースを打ったものの、後が続かず、得点は簒えなかった。一方、9回にヒットとエラーと犠牲フライで、1点を奪って、逆転に成功したデンジャラスが、そのまま、この試合を制した。
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