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「周斗はさ、どうしてマスクを作ってるの?」
真希は墓を見たまま訊いた。以前は溌剌なポニーテールだった髪は、無造作に伸びている。
「違う自分になれるから」
質問の意図は分からないが、真希が望むのであれば、いくらでも答えてやろうと思う。
「なんの取り柄もない自分が、変われる気がするんだ」
真希は「そっか」とクッションを挟んだ。
「いいね。やりたいことがあるって」
真希の細い指が、夕日を背に受ける墓石を撫でる。
「私はどうせ、お金返さなきゃいけないしさ」
真希の腕の動きに合わせて、わずかにゆれる鞄には、なんの装飾もない。事件の前は、キーホルダーやバッヂが、所狭しと飾り付けられていたのに。
そして、見窄らしくなったのは、真希本人も同様だ。
真希を引き取った親戚が、彼女をどう扱っているのか、察しがつくのである。
「生きていても希望なんてないのに、どうして息を吸ってるんだろ」
空を仰ぐ真希の目に光はない。
「お父さんやお母さん、裕太のところに行った方が、幸せなんじゃないかな」
周斗は真希の腕を咄嗟に掴んだ。真希は目を丸くする。
「どうしたの、怖い顔して」
真希が天に還ることなど許されない。それを阻止できるのであれば、化け物にだってなってやる。
*
「私の家族は、本当に事故で亡くなったんですか」
真希が初めてそれを訊ねたのは、高校三年生の初夏だった。
学級日誌を提出しにきた日直と担任のやり取りで賑わう職員室。周斗と真希が訪れた理由も例外ではなかったが、真希には別の目的があったわけである。
担任の眉がビクリと動いた。顔中の筋肉が固まっている。
「……そう聞いたんだよ」
「誰からですか」
「秋山の中学の人から……とにかく、それしか聞いていないんだ」
担任は、日誌に繋げ字でコメントを書き、バタンと閉じた。
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