哀れな化け物をどうか裁きたまえ

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 茜色の空の下で、ランドセルを背負う小学生が、ジャージを着た中高生が、スーツを纏う会社員が、各々の帰るべき場所へと向かっている。  世界の日常の中から、自分と真希は弾き出されている。 「事故なんかじゃない……皆、隠しているのよ」  真希の目が燃えている。それは夕焼けを映しているからだろうか。いや、そうでないことは分かっている。真希の瞳がどんどん赤黒くなるにつれ、真希は独りになっていった。周斗はそれに、胸を痛めることも、涙を流すこともなかった。  *  真希の生だけが、自分の望むことだ。夕食を食べる周斗は、胸中で永遠とその誓いを繰り返す。 「直哉(なおや)は偉いなー! 今日も満点か!」 「拓海(たくみ)は人気者ね。お母さんも鼻が高いわー」  周斗が真希への崇拝に耽っていても、問題ないのだ。 「周斗も、拓海みたいに明るくなれば、虐められなくていいのよ。お兄ちゃんみたいに、勉強で見返すとか。マスク作りなんて、犯罪者みたいなことしてるから、皆から気持ち悪がられるのよ」  母が溜息をついた。それが出来損ないの心中を変えることはない。  真希への純白の愛を打ち明けるのは、高校卒業の時と決めていた。  奨学金で大学に行き、愚図扱いしてくる家を出て、自分を辱める輩からも離れて、潔白となった身で、真希を愛するのだ。  そして遂に、その日を迎えたのである。  * 「真希のためなら、なんでもするよ」  みずみずしい青空のステージを、桜たちが踊り狂っている。 「僕は真希を愛している」  真希はハッとした。鮮血色の瞳の海で、水面が揺れている。 「真希を失いたくない。家族を失った真希の辛さを理解することはできない。人生に絶望するのも仕方ないと思う。だけど、僕は、真希に生きていてほしい。そのためならなんでもするよ」  周斗の眉は、この十八年で最も鋭利であった。声は強かった。そんな周斗を観察した真希は、人差し指を信者に向けた。 「それじゃあ、教えてくれる?」  真希の目線がナイフになった。 「私の家族を殺した男のこと」
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