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真希は、卒業を祝う花のブローチの上から、自分の胸に右手をあてる。
「心の中にね、殺してやるっていう感情が、マグマのように噴き出てくるの。それが段々リアルになっていって、私、頭の中にいる後ろ姿の男を殺したいんだって気がついた。殺したいほど憎む相手なんて……家族を奪った相手しかいないでしょ」
真希は唇をギリリと噛んだ。
「皆がいうように、ただの事故死だったなら、このぽっかり空いた胸は埋まらない。希望でなんて埋まるわけない。だから死んじゃおうって思う。だけどもし、お父さんが、お母さんが、裕太が、誰かに殺されたんだとしたら——」
真希は、心臓の上に置いてある右手を、ギギギと握った。
「そいつを殺すまで、私は死ねない」
真希の目は周斗を磔にし、顔を逸らすことを許さない。
分かってはいる。周囲の人間は決して、真希を傷つけるために事件を隠したわけではない。凄惨な過去に引き摺られることなく、前向きに生きてほしいという願いからだろう。真希の家族だって、天国からそれを望んでいるだろう。
だが、虐げられて育ってきた畠周斗に、慈愛の心など宿らなかったのである。
たった一人の大切な人が、自分を置いていかず、隣にいてくれるなら。
「真希の家族は、殺されたんだよ」
ああマリア。どうか僕の信仰を受け止めてください。
「殺人鬼にね」
周斗の恍惚の眼差しを映す真希の瞳が、緋色に煌めいた。
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