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大学進学への援助を、真希の親族は一切しなかった。
だから周斗は、真希を自分の部屋に招き入れた。
テーブルとベッドとパソコンしかない粗末な部屋だが、周斗にとって重要なのは、真希がいるかどうかである。
初夏の気持ちの良い昼だというのに、この部屋のカーテンは閉まっている。
「犯人は、この近くにいるのね」
真希はパソコンを凝視している。細かな情報も見逃さないとばかりに。そんな真希を、周斗はベッドに腰をかけながら眺めている。
「こんなに楽しそうだったのに……連休に、両親とお出かけに来て、嬉しかったはずなのに」
その事件の直前の映像が残っており、それは動画配信サイトやSNSで拡散されていた。トレンチコートを着た女の子が、噴水の前ではしゃいでいる。それを見る真希の目は燃えている。
「多くの人の幸せを壊しておいて、のうのうと生きているなんて……」
真希の瞳で揺らめく炎は、生命の律動だ。それを見て安堵した周斗は声をかける。
「この間、真希が駅裏通りで撮った映像にヤツ映っていたから、週末にもう一回行ってみよう。ヤツの行動パターンを把握して、確実にやるために」
二人は、様々な場所でビデオカメラを回していた。そして遂に、殺人犯と思しき男を映すことに成功したのだ。
「時間も無限じゃないから、急がないと」
「そうね。下手に別の犯罪に走られて、刑務所に行かれたらたまらない。私が、この手で殺さないと」
顔に般若を塗りたくる真希を後目に、周斗は立ち上がり、机の引き出しを開ける。
「真希、これあげるよ」
長方形の薄いパッケージを受け取った真希は、書かれている文字を読み上げる。
「センニチソウ……の、種?」
「ホームセンターに行った時、ガーデニングコーナーを気にしてたでしょ。試しに一個、育ててみたらどうかな」
真希は目を伏せた。
「考えておく」
周斗の貢物は、黒い鞄にしまわれる。その間に、周斗は引き出しに鍵をかける。
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