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——夏は過ぎ、秋を越え、雪が降り、そして溶けた。
一年かけて綿密に練った復讐計画が、ついに完成の時を迎えようとしていた。
周斗は調査の成果を再度確認する。
「あの男は、プレミアムフライデーに必ず、駅裏通りに行く。そして、ルソナシアターへと続くこの道を通って、アパートに向かう」
印刷した地図に、一年かけて調べあげたルートを書き込んでいく。
「狙うなら、ここの細道ね。人通りもないし、窓の数も少ない。その窓ガラスも装飾入りのもので、ガラス越しに見ただけじゃ、影があるってことくらいしか分からないわ」
真希が桃色の蛍光ペンで、実行現場を塗りつぶした。
「決行日は七月二十六日だ」
目を合わせた二人は、重く頷きあう。この日にすべてを捧げてきた。家族も、教授も、ゼミ生も、誰の顔もボヤけている。
周斗は真希の手を取った。真希は首を傾げる。
「ごめん」
「なんで謝るのよ」
「僕が教えたせいで、真希に辛い思いをさせている」
「何言ってるの。周斗が真相を話してくれたおかげで、犯人に復讐できるのよ。お父さんの、お母さんの、裕太の仇を討てるんだから」
真希の声色は、おかしなものを見た時のそれである。
周斗は言葉の代わりに、モノを出した。
「ヒヤシンスの種?」
「うん。明後日が来たらさ、植えてほしいんだ」
「明日が無事に終わったら、考えておく」
真希は黒い鞄に種をしまう。
「この間渡した朝顔は、無事に育ってる?」
「たぶん」
「よかった」
胸を撫で下ろす周斗に、真希は訝しげな目を打ち込む。
「周斗はさ、どうして私に花を育てさせるの? ガーデニングコーナーを見てたって言うけどさ、なんか押し付けすぎじゃない?」
周斗は重みのあるレシーブをする。
「明日が無事に終わる時に話すよ」
決戦前夜の会話は、これで終わった。
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