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——七月二十六日は新月であった。空は、かろうじて一等星が見える程度である。まったくの漆黒ではないところが嫌らしい。ほんの少しだけの希望を与えてくるのが一番厄介だ。
作戦はこうだった。男を尾行するのは真希だ。周斗は細道で待機をする。細道で真希が男を仕留め損ねた場合、返り討ちに遭おうとした場合に、挟み撃ちで加勢するためである。細道に他人が入らないかを監視する役割もある。
光のない細道に、紺色のワンピースを着た真希が入ってきた。夏でもなるべく違和感のない、しかし目立ちもしない塩梅を狙った結果である。
足音を立てずに、無造作に伸びた髪をゆらゆらさせて、獲物の背中に負の感情を突き刺している。
細道に入って四十四秒が経過した。
真希が一気に距離を詰めた。鞄に忍ばせたナイフを取り出す。疾走の勢いに積年の恨みを上乗せする。トップスピードに達した瞬間、殺人鬼の背中に刃を突き立てた。
呻く殺人犯の足元に、鮮血の泉ができていく。真希がナイフを抜き取ると、ワンピースが返り血で塗りたくられた。
殺人鬼の脚を蹴った真希は、のたうち回る彼に馬乗りになる。
「よくも私から家族を奪ってくれ——」
凶器のように鋭かった真希の眉が歪んだ。
犯人の顔に何かがペッタリと張り付いている。いや、顔の描かれたソレを被っている?
右頬からソレを捲れそうだった。先ほどの暗殺時にのり付けが甘くなったのだろう。
真希は剥がれかけたソレを指で挟む。左上に捲り上げる。ビリーッ! と音を立てて、ソレは剥げた。
真希はナイフを落とした。
「嘘……なん、で……」
口を両手で覆う真希を、殺人鬼は——
「……真希」
畠周斗は、微笑みながら目に焼き付けている。
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