百合の候

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とりあえず同じようにした愁哉は、周囲を確認した。 人の気配はなし。 視線も感じない。 「どうしたんだ」 大丈夫だと肘で小突いて合図すると、同期がようやく振り向いた。 「単刀直入にいくぞ」 そう言って、ポケットからしわくちゃの紙を取り出す。 中身は粉薬だった。 「なんだこれ」 「後輩が澄川少尉から勧められたって」 「後輩って……。ああ、暮葉大佐のとこの長男坊……」 「うん、暮葉潤司ね」 「それでこれは……」 ほとんど確信に近い嫌な予感を抱えながら聞くと、同期は困ったように笑った。 「麻薬、みたいな……」 「嘘だろ……」 絶句である。 澄川少尉は愁哉たちにとって、比較的親しみやすい士官であり、尊敬できる兄のような存在だ。 その澄川少尉と麻薬とがいまいち結びつかず、遅れてじわじわと衝撃がやってきた。 ああ、そんな人間だったのか、という落胆とも疑念ともつかない、嫌な感じである。 「しかも多分、アヘンとかヒロポンとか、そういうのじゃない」 「じゃあなんだよ」 「なんかイギリス?の方から入ってきた、新しいやつらしい」
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