百合の候

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「もし潤司が澄川少尉からなにか聞かれたら……」 「飲んでみたが、気分が悪くなってすぐに吐いちまったって答えさせろ。あと、また貰ったらこっちに渡せよ」 資料はなるべく多い方がいい。 「わ、わかった!」 同期も腹が決まったらしく、力強く首肯した。 昭和12年、初夏。 紫色の雲が立ち込める、怪しい夜のことである。 長い雨の日々、その前夜ーー。 血と泥の時代はすぐそこである。 たまには人のため、などと思ったが、どうやらとんでもないことに首を突っ込んでしまったらしい。 数日後の非番を待ち、愁哉は知り合いに薬を託した。 薬は同期が言った通り、全く新しいものだった。 予測される作用としては、神経を興奮させる作用、それによる多幸感、幻覚、万能感。 従来の薬と違い、効果が長く続くらしい。 しかしこの知り合いにも分からない成分が1つあった。 見た目は砕けた宝石のようなものらしいが、水に溶かすと液体化する。 溶けた様は生き物の血にも似ていたが、血液とは似て非なる成分で構成されているという。 そこまで聞いた愁哉はすぐに、とある女を思い出した。 その女は魔術師であり、日常的に生き物と似て非なるものーー魔獣と接している。
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