0人が本棚に入れています
本棚に追加
「もし潤司が澄川少尉からなにか聞かれたら……」
「飲んでみたが、気分が悪くなってすぐに吐いちまったって答えさせろ。あと、また貰ったらこっちに渡せよ」
資料はなるべく多い方がいい。
「わ、わかった!」
同期も腹が決まったらしく、力強く首肯した。
昭和12年、初夏。
紫色の雲が立ち込める、怪しい夜のことである。
長い雨の日々、その前夜ーー。
血と泥の時代はすぐそこである。
たまには人のため、などと思ったが、どうやらとんでもないことに首を突っ込んでしまったらしい。
数日後の非番を待ち、愁哉は知り合いに薬を託した。
薬は同期が言った通り、全く新しいものだった。
予測される作用としては、神経を興奮させる作用、それによる多幸感、幻覚、万能感。
従来の薬と違い、効果が長く続くらしい。
しかしこの知り合いにも分からない成分が1つあった。
見た目は砕けた宝石のようなものらしいが、水に溶かすと液体化する。
溶けた様は生き物の血にも似ていたが、血液とは似て非なる成分で構成されているという。
そこまで聞いた愁哉はすぐに、とある女を思い出した。
その女は魔術師であり、日常的に生き物と似て非なるものーー魔獣と接している。
最初のコメントを投稿しよう!