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「琉生先輩、今日コンビニのバイトですよね……」 「あー、うん」 「今日は本当にありがとうございました」 「え? もう、いいのか?」  気づけば空がオレンジ色を迎えていた。風も涼しさを連れてくる。呆気なく別れが来た。呆気なさ過ぎて、買われた俺が引き留めてしまった。  だって日給2万だぞ。今日なんて一緒に夏祭りに来て屋台で買って、食っただけだ。  さすがの俺でも、躊躇してしまう。これでは完全に給料泥棒だ。 「うん、バイトに行ってきてください」 「……お、おう」 「僕の変なわがままに付き合ってくれて、ありがとうございました」  拍子抜けだった。これで2万もらうのは心苦しいくらいだ。  お礼と共に差し出された2万円。受け取ろうと伸ばした手が止まる。これを受け取ってしまったら、今日の楽しい記憶が偽物のように感じてしまう。 「……」 「受け取ってください。そういう約束なんだから」  俺が躊躇している様子を伺いながら、淡々と述べた。  言葉に迷っていると、半場無理やり手に握らされた感触。2万円は律儀に茶封筒に入っているようだ。つかまされた茶封筒を仕方なく握る。  俺が迷っている間に晴人は背中を向けて歩き出した。モヤモヤとした気持ちは消えない。  いいじゃん。くれるっていうのだからお金をもらっておけば。そう何度も自分に言い聞かせるけど、モヤモヤは広がっていくばかりだった。 「……あのさ!」  遠くなる晴人の背中に投げかけた。ここ最近で一番出た音量の声は届いたようで、不思議そうな顔で振り向いた。    「……明日からはお金の発生しない、と、と、友達になれるか?」  この年になり、友達になって欲しいなんて、言葉にするのは恥ずかしかった。恥じらいから顔を見られず視線を逸らした。 「……」 「俺の中では……もう、金の関係じゃないっていうか、あれだ。友達って気づいたらなってるものなんじゃねーの?」  少年漫画でありきたりな下手な台詞を吐いた。  恥ずかしくて顔に熱が籠る。ただどうしても伝えたかったんだ。お金の関係ではないと――。 「……ありがとう。琉生先輩」 「明日から……その、たまに弁当一緒に食べたりするか?」 「……」 「その、と、友達だったら弁当を一緒に食べるなんて普通だろ?」 「……嬉しい、です。ありがとう。琉生くん」  そう言って別れたのが最後だった。  困ったように笑った晴人の顔が目の奥にこびり付いて離れない。  学校が同じなんだから、ばったり会うだろうと軽く考えていた。また会えた時に話せばいいと――。  
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