白銀の瞳は月夜に輝く

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──そして、現在19歳。 20歳の誕生日を迎えるまで、約半年。 同時にそれは、人生の終わりを意味している。死が、すぐそこまで迫っているということだ。 レミは自身の人生を、変えることのできない宿命を受け入れ、残された時間をただ生きるしかなかった。未来や希望と言った明るい世界など存在しない。そこにあるのは、絶望と恐怖のみ。抗うことは許されず、抗う(すべ)すらも思いつかない。仮に家を出て逃げ出したとしても、その後どうやって生きていくのか。知識も経験も浅く、まともに外の世界を知らない子供同然の人間が、一人で生きてけるのか。逃げ出した先に待っているのは、きっと明るい世界などではないと、レミは分かっていた。 『レミ、晩ご飯出来たわよ〜降りてらっしゃい。』 「…はぁーぃ…。」 1階から母の声がした。私は自室から、力のない返事をする。どれくらいだろうか、1年程前からだったろうか、鏡に映る自分の姿が、日に日にやつれている事に気がついていた。暗がりの中「大丈夫だよ、レミ」と、自分自身に声を掛けて微笑んでみたこともあったが、目の前のそれは、まるで死神に取り憑かれたかのようだった。我ながら、哀れだと思えた。 『レミ…最近ぜんぜん食べてないじゃない、どうしちゃったの?』 「外に出ることもないし…体を動かすことも少ないから…お腹が減らないだけ。」 (お母さん…どうしてなの?村の掟のこと知ってるくせに…何でそんな顔でいられるの…何を考えているの。) 何を考えているのか、表情から全く読めない両親の事を恐ろしく思いながら12年程の月日が流れ、今もその気持ちが変わる事はない。 『おねーちゃん、要らないならマニラが貰ってもいい?いいよね?頂きまーす!』 マニラは、私とは違って活発で明るい子だった。 それもそうだろう、私とは違って、一人で外に出ることが許されているのだから。学校に通って、友達と遊んで、外の世界を見て知って、学ぶ。自然と人らしく育ったのだろう。正直なところ、マニラを妬ましく思うこともあった。 だが、自分にとっては誰よりも信頼できる存在だった。嘘偽りのない優しさと、純粋な心を持っていたからだ。レミにとってマニラは、唯一の心の拠り所であった。マニラはたぶん、村の掟について何も知らない。両親がマニラに対してその話をするとは思えないし、言ったところで何もメリットはないからだ。例え、外でその手の話を聞いてしまったとしても、人を疑うことを知らない性格ゆえに、それを鵜呑(うの)みにするような子ではないと思ったからだ。(けが)れを知らない、優しい子。 母と私とマニラと3人で食事を続けていたその時だった、一本の電話が入る。母は一旦食事を止めその電話に出ると、みるみるうちに顔が真っ青になってしまった。それを見た二人は何事かと困惑し、母の姿を凝視する。 『えっ…?!主人が…病院に搬送されたっ…?どういう事ですかっ…。』 ここまで狼狽した母の姿を見るのは初めてだった。 『わかりましたっ…!今すぐにそちらに向かいます…。』そして、受話器は勢いよく置かれた。 『レミ、マニラ…!お父さんがね…仕事中に怪我して倒れて…病院に救急搬送されたらしいのっ…!い ま、手術を行ってるって…お母さん、これから病院に行ってくるから、2人でお留守番しててくれる?!』 『えっ…お父さん大丈夫なのっ!?』 言葉をいい切る前に、マニラは勢いよく立ち上がる。そして、母に近寄った。 『まだ…わからないわっ…でも、とにかく行かないとっ!』 私も一緒に行くと、マニラが言う。しかし母は、家で留守番していなさいと厳しく指示を出したのだ。マニラは納得いかないといった様子だったが、母が指さした方を見た後、渋々と頷いた。今日は、月が最も明るく大きい、満月の日だった。満月の日は、魔物がより一層活発化し、人を襲う確率が高いとされているからだ。そのため母は、一人で病院に向かうと決めたらしい。 母は慌てふためきながら身支度を整え、ものの数分で家を飛び出して行った。
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