白銀の瞳は月夜に輝く

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時刻は21時を回っていた。 『お母さん、帰ってこないね…。』 「うん…お父さんの事も心配だけど、連絡もないしね。」 レミとマニラは、リビングのソファに腰を掛けて母の帰りを待っていた。すると、本日二回目の電話が鳴った。妙な緊張感を抱きつつも、レミが受話器を取る。 「はい、もしもし。…あ、お母さんっ?…うん、うん…。そっか、無事なんだね…よかった。え、今日は病院に泊まるの…?わかった、マニラにも伝えておくね。」 母との会話中、マニラは電話越しに話されている内容が気になって仕方がなかったようだ。我慢できないといった様子で、私の傍に駆け寄ってくる。そして、受話器から小さく漏れてくる母の声を、耳をそばたてて聞いていた。 『お母さん、今日は病院に泊まるって?』 「そうみたい。お父さんのことが心配だし、それに今日はもう遅いから帰りのバスもないって。」 『そっか…じゃあ今日は私たちだけなんだ…満月の夜だし、なんだか怖いな〜。』 そう言ってマニラは、レミの腕にそっと手を添えた。怖がるマニラに対し「大丈夫だよ、お姉ちゃんが傍に居てあげるから」と言って、マニラが眠りにつくまで手を握ってあげていた。 (マニラ、寝ちゃったな…。私も部屋に戻ってそろそろ寝ようかな…全然眠くないけど。) レミはマニラの部屋を後にする。自室に戻り、(とこ)に就こうとした時だった。真っ暗な部屋が、窓から()し込む月の光によって照らされていることに気がついた。ふと外が気になって、カーテンを開ける。空を見上げれば、そこには広大な薄紫色の世界が広がっていた。そして、その中に一際輝く大きな丸い月。 「あんなに綺麗なのに…皆に怖がられてばかりで…可哀想。独りぼっちで…私と一緒だね。」と、ボソリと呟く。レミは、ゆっくりと静かに窓を開けた。吸い込まれそうなほど美しいそれに、まるで心が引き寄せられるかのような感覚に(おちい)る。気がつけば、無意識に月へと手を伸ばしていた。 「死ぬまでに……もっと近くで…見られたらいいのにな…。」レミは、力なく手を下ろす。そして窓を閉めようとした時だった、ふと、とあることを思いついたのだ。 (今日は…お父さんもお母さんもいない…マニラも寝ちゃった…。今なら…外に出られるかもしれない…。) 「この目で…もっと近くで…あの綺麗な月を見てみたい…。」レミは思った。このままここに居ても、あと数ヶ月もしない内に生け贄にされて死んでしまうのだと。どうせ死ぬのなら、一度くらいは自由に、自分の足で外に出て、あの綺麗な満月をこの目で見てみたいと。もしかしたら途中で魔物に遭遇するかもしれない、そう考えると恐ろしいとも思えた。だが、どの道 ” 死 ”という運命を変えることは出来ないのだ。ならば、少しでも悔いのないように生きたいと、レミは覚悟を決めた。 ──玄関の鍵を開け、ドアノブを回す。そしてレミは、夜の世界に、一歩足を踏み入れた。
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