虚構日記 2023/09/27

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虚構日記 2023/09/27

 おすすめで流れてきた、その流れでうっかりポチった、花村萬月の『たった独りのための小説教室』。  真に受けやすいものだから、今日から虚構日記を始めることにした。  最低でも一ヶ月、ということだけど、今から「続くだろうか」よりも「楽しすぎて毎日時間をかけすぎたら困る」という心配のほうが大きい。  とにもかくにも、先生に報告しなくては。 「またキミはそういうことしてんのか」  オリーおばさん自慢の肉まんじゅうを私のほうへ押しやって、先生は苦笑いしている。  昔、同じように、なんとかいう小説家の、小説の書き方講座なんて本を真に受けた。ひたすら水を描写した課題を提出して、これこれこういうわけでと語った私に、先生は困惑顔で「キミはこういうことしなくても……」と言った。  今思えば、先生の小説道場に通いながら、よその小説家のなんて、失礼であった。  とはいえ今は仕方がない。こちらから課題を先生のもとへ送ることも、先生の講評を聞くことも、そういう技術はまだ実用化されていない。  薄いカラム水をちびちびすすって、ええまあとか言いつつ先生の顔をうかがう。  ひらりと魔法で出した氷をゴブレットに入れて、かきまぜた指先をぺろりと舐める。懐かしい仕草だ。  私のクラスはずっと放牧だった。リレー小説のように制約があったほうが燃える私は、課題が必要に思うんですよ。  ううんとうなる先生に、気まずくなってきて、タイス観光はどうでしたかと聞いてみる。さすがに飽きたのだろうか。  トパ目が大道芸をしにくるときだけ、今でも見に行ってると先生。  そうか、陛下もたまには息抜きが必要だもんな。  話が途切れると、先生はニッコリして、元気か、と聞いてきた。  嘘でもいいから「元気です」とこたえるものなんだろうけど、 「いや、上司がヤバくて」  と言ってしまうあたり、私は甘えているのだろう。 「小説に出して総受けにしてやれ」 「萌えないからムリっす」 「じゃあホラー小説に出してひどい目にあわせて、最後○すのはどうだ?」 「いいですね! それならホラー苦手な私もノリノリで書けるかもしれません!」  盛り上がりかけたところで、待てよと私は口をつぐんだ。  岡田斗司夫ゼミで聞いたのだ。死は、解放。作品名は忘れた。作者は攻殻機動隊のひと。  ショート動画を先生に見せる。 「キミ、こういうのがタイプなのか」 「痩せてるときならタイプでしたけど、いま見てもらうのそこじゃないっす」  先生が楽しそうに笑う。キラー細胞、仕事して。もっと仕事して。  残ったカラム水を飲み干して、顔を見られないようテーブルにおでこがくっつくほど頭を下げる。 「じゃあそろそろ」  うん、と先生がうなずく。  けっこう年季が入ってきたクロームブックの前に、戻ってきた。  マックブックエアーとか嘘ついてもいいんだろうけど、それは趣味じゃねんだよな。  おやすみなさい。
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