虚構日記 2023/10/07

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虚構日記 2023/10/07

 夕飯は近所のファミレス。  入り口が狭くて手こずるけど、車椅子がおさまる席がある。トイレは対応してないから、これまた介助に手こずるはずだが、元傭兵の姉は排泄もコントロールできるんだとか。  契約結婚するとき、私はどれだけ人生投げやりになってたんだろう。というか気絶してたんじゃなかろうか。今頃あれこれ気がついたり思い出したりする。  レミおじさんだかレミたんだかが、やってくるせいかもしれない。会うのは5、6年ぶりだ。  法律上は私の夫で、世間的には姉であるサトルは、パートナーとの再会が楽しみなのかどうか、表情からは伺えない。  ひれかつセットを頬張りながら、向かいに座った姉と妹を眺めた。  出かけるときは、妹が姉のことを自分と同じロリータファッションに仕立て上げる。私は等身大ビスクドールを持ち込んで食事するイカれた女になったつもりで、内心えへらえへらと楽しんでいる。  こういうところが、サトルに気に入られたのかもとも思った。レミにも、そういえば歓迎はされてなくとも嫌われてはいない感じがあった。本名は教えてもらえていないにしても。  さすがに酒の名前は偽名だろう。試しに、名前も知らない筋肉ゴリラを家に泊めるのはいかがなものかと言ってみた。  マスカラいらずの目元が少し揺れて、 「たしかに、マルタンじゃあない。ストラトスだ」  その場でスマホ検索したら、ギリシャ語で軍隊という意味。  雑多な知識がぐるぐる頭をめぐって、以前に聞いた職業、現役バリバリの傭兵というのを信じるなら、これも偽名だろうと片付けることにした。  名前よりは職業を疑う方がありふれた選択なんだろうけど、迷ったら、面白い方を信じる。  先に食べ終えた妹が、テーブルのタブレットでデザートを選ぶでもなく、なにかもじもじしていた。  そういえば、いつもは姉の仕上がりをうっとり眺めるポジションに座るのに。今日は隣に陣取ったのは、妹なりに、折り合いをつけようという努力だろう。たぶん。  とうとう妹が口にだしたのは、 「その、レミおじさんとは、どっちがその、攻めなの?」  タチかネコかで聞いたほうがよいのでは、と思わずくちばしを突っ込んで、姉に睨まれた。なんで睨まれたのかわからない。  プライベートなことだ、とピンクの唇が低く答える。  せやな、と付け合せのブロッコリーをかじる。 「とはいえ、家族だからな。どうしても知りたいなら見学したらいい」  レミがいいと言えば、と付け加えたけど、私は緑のつぶつぶを皿に吹いてしまった。  普通、家族でそういうの見学させないのではないでしょうかと、やっぱりへりくだった言い方になってしまう私と同様に、妹も、 「ご遠慮します」  と変な敬語になった。 「百合なら、少しはたしなむのに」  悔しそうに唇を噛んだ妹へ、姉2としては何を言えばよかっただろう。  そうなんだー、と間抜けな相槌以外に。  おやすみなさい。
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