虚構日記 2023/10/11

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虚構日記 2023/10/11

 百鬼夜行でいいじゃんか、とは昨夜のうちにこぼした。  当局が、日本にむかっているから八百万の神と名付けたそうだ。  レミのいう「当局」がどこだかは分からない。知らぬが仏。  まあ、ベルセルクは日本のマンガだし?  出勤途中、ふてくされた気分で考えた。  朝の光のなか、コンビニ前の駐車場を竹箒ではいているじいさんに会釈する。奥さんはまだ入院中らしい。  あまり思い出したくないアレを頭のすみっこに置いて、チラ見しながら歩く。  人間とも獣とつかない異形たちのカタログ帳。顔(と呼べるなら)のパーツや四肢(と呼べるなら)の一本一本、数も配置も独創的が過ぎる。その大きさも。  ただ、積極的に害をなして突進しているのでもないらしい。ただ進行の途上にあるものは「のみこまれる」のだという。  虚無の道。  時間とともに消える、というか物質が消失する作用が消える(ややこしいなおい)そうだ。  各国で、この、いわゆる霊感のある者にしか見えていない現象が起きていて、それらがすべて日本に向かっていると判明した。  オーケイそこまでは把握した。  それで、ここに我らが八百万の神様たちが集結したとして、いったい何が起こるのか。個人的には八百万の神と名付けるなら、俺の屍を越えてゆけ系がよかった。  絵面が私視点では三浦建太郎・画だったから、同窓会かなって呑気な想像ができない。  ありうるパターンは、日本消失。  わあ、そういうの映画で観た。  小説のほうは、パロディの、日本以外全部沈むやつしか読んでない。  冗談でしょう。吐きそうだ。  そんな思いを切り替えられない勤務時間中、またヤバい上司がヤバい提案をしてきた。  上の空だったから、じゃあ上司から先方へ連絡して承諾を得てください、と言った。  今の作業が半分手戻りになってやり直し、支払いも最低でも一ヶ月遅れになりますから、その旨のご説明を先方へお願いいたします。ペーパー作りますか?  上司はニコッと笑って、じゃあやらなくていいわ、なんて言って立ち去った。  午後には、人間ドックの結果が返ってきた。  視力と昔の肺炎の名残り以外はオールA。健康体だ。姉妹の冷ややかな視線にさらされながら毎朝ラジオ体操にはげんだ成果だろうか。  ふと、消音でニュースチャンネルがつけっぱなしになっているテレビが目に入った。  どこか外国の映像。ニュースそのものとは無関係に、のぞりのぞりと画面を横切っていく巨大な灰白色のなにか。そのあとをずっと小さな、むきだしの脳に似ているけど、昆虫の脚でノミのように跳ねるなにかが追いかけていく。  誰も、アナウンサーも現地の記者も、気づいていないように見える。  ゆうべのが、二人の渾身のドッキリという線は消えた。  こんな川柳かなにかを覚えてる。  足腰を 鍛え鍛えて がんで死に  美味しんぼで読んだ。  毎朝の ラジオ体操 百鬼夜行で……  字余りにもほどがある。  それに、どうなるかはまだわからないはずだ。  食堂のヘルシー定食が胃からせりあがってくる。  なにか、できることがあるんじゃないだろうか。私と姉と妹が、アベンジャーズのようなコスチュームで立っている姿を思い浮かべてみる。  力ない笑いがもれた。  だけどレミが帰国した理由は、最愛のひとのそばで最期を過ごすためかもしれない。  帰宅すると、レミと姉がいなかった。  必ず帰るからという伝言が残っていた。  おやすみなさい。  
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