虚構日記 2023/10/15

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虚構日記 2023/10/15

 この国が消滅の危機かもしれない。  そんな話を聞かされて、なにやら異形のものの姿もちらほら見えはじめて。  ハリウッド映画だったら、あと何日とか何時間とか、タイムリミット作ってハラハラドキドキの展開になってるはずだ。  そういう展開にはならず、今日は一日中、ショッピングモールで買い物に付き合わされた。  レミがいたから、そうとう楽ではあった。姉の車椅子はレミが押したし、ユニバーサルカーをレンタルしてきて運転もしてくれた。  まあ買い物の大半は、着の身着のまま帰国したレミのあれこれでもあったけど。  いつもの外出であれば、だいたい妹が車椅子を押す。姉も妹もロリータファッションで、わりとヒソヒソされたり、からんでくるオッサンもいたり。  車椅子でそんなカッコしてんじゃねえって。  からまれるのはだいたい、後ろをついて歩いてる私だ。あんなカッコさせてどういうつもりだって。  地味で、おとなしそうで、言い返してこないように見えるんだろう。  最初のうち、車椅子を押す役を奪われふてくされていた妹は、いまは花魁道中の先触れでもするように、得意げな足取りで前を歩いている。私はいつもどおり最後尾を行きながら、深く息を吸った。  筋肉レミが車椅子を押してると、こうも空気が違うのか。  なんというか、歩きやすい。  レミも美形なものだから、視線を集める点ではいつも以上だ。にもかかわらず、息がしやすい。  世界が、接し方を変えている。  当然、世界の見え方も違うだろう。  ふと気がついて、移動しながら低い声で話している二人に聞いた。 「最初に見せてくれた百鬼夜行の映像って……」  実は映像化されたものではなくて信号を発していたのだ、というけれど。 「なにか、した? なにか……ようになる作用がある、とか」  姉が私を見返し、それからレミを見る。 「な、言ったとおりだろう。回転は遅いが、たどりつく」  頭の回転が遅い……コンプレックスをさらりと言われて、うわあ、と口があいてしまう。  いくら回転が遅くても、テレビや動画サイトの最近の投稿に、もれなく何やかやと映りこんでいるのが見えるようになったら、そういう可能性を考えて当然だ。 「でも、マオには見えてないでしょ。オタクじゃないから?」  それには答えてくれず、レミが周囲をさっと見回す。視線の先で何人かがキャアと黄色い声を上げた。 「藤子も肉眼では、まだ見えてない?」  怖いことを言う。  少し顎をあげたレミは、軽く口をひらいて見せた。口蓋に、なにか張り付いているのがチラリとのぞく。  それから伊達メガネをちょいと指差した。  ブレイン・ポートの、百鬼夜行対応ヴァージョンだ。  人間の視覚では認識できない信号をとらえて可視化する。 「じゃ、レミさん、見えてるん、ですか」  なぜ敬語、と姉が小さく吹き出した。 「見える。たいがい付喪神のたぐいでかわいらしいものが多いけど。おかげでサトルとのデートに集中できないね」  冗談なのだろう。ツッコむ気力は残念ながらわいてこない。  それから傍目には買い物を楽しむ家族連れ(に見えるかどうかは怪しい)のようにふるまいながら、ボソボソと今後の計画について話し合った。  聞けば当局とやらが流している動画は、見えるようになる可能性のある層には好まれないジャンルだ。申し訳ないが、アドバイスをしてしまった。  もし、あなたが、なにかが見えるようになって、この国の危機だとかいって突然ある日、バトルに駆り出されることを夢見る中二病でないなら、×××××とか、ーーーーーとかの動画は、今月に限っては視聴しないほうがいい、と警告しておく。  まあ、こんなブログを読んではいないだろうけど。  おやすみなさい。
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