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虚構日記 2023/09/28
朝方、花村氏の訪いを受けた。
君みたいなひとのために書いたんじゃないんだよねとかなんとか言ってた。
昨日のうちにそういう自覚はあったから、内心でうるせーバーカバーカとつぶやきながら、口でははあとかへえとか頷いておく。
もちろん『たった独りのための小説教室』、次の章での答え合わせが不安でたまらない。答えを求めることが間違ってると知ってても。
つか、答えとか傾向と対策とか、悩んでも悩んでもそのとおりには全然できなくて、結果タガが外れるのが私の狙うパターンではあるけど。それを花村氏に説明してもなあと、はあ&へえで乗り切った。
帰り際、花村氏が振り返ったとき妙な顔をしていたから、もしかして内心のつぶやきと口に出した言葉とが、スイッチ切り替え間違えてたかもしれない。
日中は特筆すべきことはなし。
夜中に叩き起こされた。
近所のコンビニ店主が腹下してるから、今なら取り放題だと姉が金髪振り乱している。田舎の小さな店で、夜は店主のじいさん一人だ。食い逃げされてもバイトは雇うな、を真に受けてると聞いた。
ゴスロリ戦闘服の妹と、面倒だから部屋着のままの私とで乗り込む。
先客がいたらしく、カップ麺とパンの棚が空っぽだ。
つないだままのスマホから姉が、プリン忘れるなという。
ペヤング食べたかったのにと舌打ちする妹は、甘いものの棚からごっそりつかみとってエコバッグに放り込んだ。
私は売れ残りのフレンチトーストをつまみとった。店主の奥さん手作りの、ラップでつつんでセロハンテープでとめたやつ。ハムとチーズがはさんである。
客が入ってきた。
ビクついた妹が、パニエでふくらんだスカートをあちこちにこすりながら出ていく。
客のおっさんは空っぽの棚を見ても慣れたもので、奥にむかって、いないのー、と声をかけた。
怪しまれないように、私もそそくさと店を出る。
寝なおそうと布団にもぐりこんだら、戦利品を貪り食う姉妹から、食べないのかと聞かれた。
明日人間ドックだからと答える。夜9時以降は飲食禁止。
「じゃ、なんで行ったの?」
本気で不思議そうに聞かれたから、金髪の姉と青髪の妹の顔を見た。
この世の中の何事も、己のために存在すると信じて疑わない、収穫でもするように盗みに入る、ピカピカのリア充みたいな二人のことを、たまには姉妹だって実感したいからーなどと説明しても仕方ない。
私は黙って布団をかぶった。
おやすみなさい。
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