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虚構日記 2023/10/16
月曜日だ。
特に支障がないというので、いつもどおり出勤する。
世界とか国とかが消滅するなら、サボってあれこれやるのもいいけど、これからも続いていくほうに掛け金を置いてる立場(そうなんだろう、たぶん)である以上、日常を続けていこう。
途中のコンビニで、週刊少年ジャンプを買う。
通勤電車で、今週の呪術廻戦もHUNTER × HUNTERも休載なのを確認した。
カラーページのVジャンプの付録に、ヒソカがいる。もれなくヒソカがついてくるなら買いだけど、と食い入るようにページに見入った。
始発なので通勤電車といえども座れる。ふと顔をあげたとき、足元をなにかがすり抜けていった。
風ではない。窓は閉まっている。
感染症対策で、常に少し開けていたのはもう以前のことだ。
足元へ目をやるのは避けて、中吊り広告を眺めた。
扇情的な煽り文句を見ていると、漢字がもぞりと身じろぎした。キョロリと目玉が飛び出て、剛毛の生えた手足が伸び出る。
目を閉じて、寝ることにした。
膝のあたりでなにかが飛び跳ね、肩口でなにかとなにかが諍う気配があった。
何も見ないよう、気づかないようフル回転で仕事して、帰ると妹が、冷凍弁当を温めているところだった。
今日はレミの野戦料理ではないらしい。
姉もいない、二人の夕食はそれほど珍しくないのに、妙に寂しく感じた。
このところレミもいたし、テーブルでかわされるのが穏やかな話題ではなかったからだろうか。
「修学旅行、行けるかな」
ぽつりと妹がつぶやく。
予定は来月だ。
映画みたいに「Xデイ」を宣言されてはいない。けど、きっとなにかが起こるのは、決定的な何かが起きるのは、ハロウィンの日だろうと私も妹も、感じ取っていた。
私は、冷凍弁当にしては副菜までしっかり美味しい温野菜を咀嚼した。
どうやら自分で思っていた以上に、この妹ーー養子にむかえながら世間的には三姉妹としてふるまうとか、ややこしい設定にクールに付き合っている妹のことを、大切に思っているらしい。
前に彼氏と歩いてるの見かけたとき、リア充爆発しろ、てつぶやいてごめん。
「姉2が、なんとかしてやんよ」
サトルという名の姉もいるし、シンプルに筋力が役立つレミもいる。
ベルセルクな百鬼夜行を思い出すと肩から首にかけてがチリチリするけど。
世界のためとかこの国のためとかじゃなく、妹が楽しみにしている修学旅行の来月のために。アベンジャーズでもレディ・プレイヤーでもピクセルでも、やってやんよ。
白い頬を山桜の濃いピンク色に染めて、妹にしては珍しく、わかりやすく微笑んだ。
「お土産に、木刀、買ってきてあげる」
京都、奈良に「洞爺湖」と彫った木刀は売ってないだろうけど。それでもまあ、
「……ちょっとほしい」
深夜に、姉とレミは帰ってきた。
そういえば、二人で逃げたとか、びた一文も疑ってなかったなあと、新たに公開可能な情報とやらを聞きながら思った。
その話はまた明日。
おやすみなさい。
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