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虚構日記 2023/10/18
覚書のためにも、昨日のことをまとめておく。
あとで聞かされたことだけど、寝ている間に私は脳波だとかもろもろ、データをとられたんだそうだ。
工事現場で働く姉とレミにホットサンドを作る夢を見たから、なんとなくあれがそうかと思う。
夢の中の姉は、片方の肩に鉄骨をかつぎ、もう片方の腕の力だけでヒョイヒョイ動き回っていた。レミはガンタンクの足部分みたいなのを抱えて姉の後を追いかけていた。私が作っていたホットサンドは、チョコバナナとハムチーズと、納豆キムチーズだった。
妹の修学旅行のためにと決意したあとで、レミから差し出された契約書らしきものにサインしたけど、あれが検査の同意書だったらしい。
同じ書類に、二人がサイン済みのものを見せられたから、信じてしまった。英語だからって投げ出さなければよかった。
「僕とサトルもデータをとったけど」
と前置きしてレミが言うには、二人はブレイン・ポートなしで百鬼夜行を見ることはできないが、オタクのうちの一定数は、能力を増強することで補助端末なしでアレが視認できるという。
それは知ってる。
このところ毎日がゲゲゲの鬼太郎だ。墓場どころか昼からオフィス街で運動会だ。
気になるのは、海外からここへ向かっているという百鬼夜行の映像に比べたら、三浦建太郎と水木しげるくらいの画風の差はあるということだ。
希望的観測のせいだろうか。
「日本がアニミズムの国で、付喪神……擬人化全般になじみがあるのが影響している、という仮説がいまのところ有力だ」
とは姉の解説。
「できることなら恩人の娘であるマオも、もちろんトウコも、巻き込みたくはなかった」
これはレミ。妹には、最初に見せた画像がハロウィンにしか見えなかったことから、検査そのものを受けさせていないそうだ。
見える能力をあっさり開眼させてしまった身内がいる以上、協力させない選択肢はなかった。
「それと、我が妹トウコの検査結果の数値は、計測機器の故障を疑うほど桁違いだったことも伝えておく」
「そのおかげで、先頭にたってバトルすることはない。後方からの、いわば援護射撃と支援の役割を期待されているんだ」
二人は、誇らしいようにも困惑しているようにも見える。
「心当たりは、あるか?」
「えっ、オタク度の強烈さに?」
「見える能力にオタクかどうかは関係しているけど、妄想を具現化する脳の出力の強さは関係がないんだよ」
姉とレミを交互に見て、困惑が感染するのを感じた。
「脳の出力と言われても」
思い出すのは、幼稚園児の頃からの頭痛だ。
かかりつけの小児科医が、ゲラゲラ笑ったのは幼心に傷ついて忘れられない。
ーーあのねえ、子どもには、頭痛なんて、な・い・の!
大人になってから調べた。子どもで頭痛持ちなど普通にいると知り、夢の中で何度あの医者の藁人形に五寸釘を打ち込んだだろう。当時、いつも聞いていたラジオでは、山崎ハコが歌っていた。
そうだ、幼いながらも、頭痛を自力でどうにかしようと思って、たどりついたのがどういうわけかブラック・エンジェルズだった。
我が心、すでに空!
空であるがゆえに無!
無になれば痛みからも解放されるのではと考えた。
ヒマさえあれば、今でいうところの、マインドフルネスとか瞑想とかをしている子どもが、仕上がって、今、こうだ。
おかげで学校の先生方からは、おとなしくて良い子と評価されることもあったが、まったく外に出て遊ばない、無理やり外に出しても木陰や鉄棒のそばでじっと目を半眼にして突っ立っている、薄気味悪い子と嫌がられることも多かった。
私の脳が普通と違うとしたら、幼少期からそんなことをしていたから、ではなかろうか。
触手をコンバートだかオートマだかするという話は、そういう理由だったか。
納得したわけではなくとも、そういうもんかと思うしかない。
朝、出勤の道すがら、車道のまんなかをウロウロしているカラスがいた。
試してみようなんて考えたわけじゃない。
「ようカラス、あぶないぞ」
小声でつぶやいて、そっとすくいあげるイメージを浮かべた。
よせよ。
そんな声を聞いた気がするのも、私の妄想だ。
だけど、ふわりと道路から浮き上がったカラスは、ひょいとそのくちばしを帽子のひさしのようにはねあげ、
「よせよ、わかってるって」
存外若い青年の顔がのぞいた。宮崎駿の映画でみたような、オッサンじゃない。
時間がとまった。
と思うと、カラスは高く飛びあがった。
どうやって会社にたどりついたか記憶はない。
今日一日、立て続けに起こったトラブルの対処に追われた。
帰宅して残り物のカレーうどんをすするまで、爽やかフェイスのカラス男子のことなど思い出しもしなかった。
疲れた。
おやすみなさい。
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