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虚構日記 2023/09/29
バイト先の店長さんが異動するから、と妹に引っ張られて、送別会に参加することになった。
なんでや、あたし関係ないやん。
今日も青髪ゴスロリ戦闘服の妹が、ボサボサ頭の姉2である私を連れていきたいわけが分からない。
いつもより3割ほど戦闘力が下がってるような目をして妹が言うには、たいへん慕われている店長さんなもんだから、妹がバイトを始める前に辞めた元バイトや元店員も集まるんだとか。人見知りめ。
居酒屋とかなら断固拒否か、上の姉に丸投げするところだったけど、まだ学生のバイトもいるからだろう、場所はファミレスだった。
テーブルをいくつか占領するほど人数がいて、私には誰が誰だか分からないけど、店長さんの顔は知ってる。
妹のバイト先をひやかしにいって、ハードカバーを一冊読み終えるまで長居した私にも、嫌な顔ひとつせず、折々お冷を継ぎ足してくれた。まあ、一時間あたりコーヒー一杯は飲んで、カレーとサンドイッチとチーズタルトも食べたから、客単価的には迷惑かけてない。多分。
ひとりひとりに声をかけてまわる店長さんは、妹の隣の私を見ても、さすが「お姉さんですね」とニッコリきっちり覚えていた。
妹がたいへんお世話になりましたと頭を下げる私の横で、妹が言った。
「実はいま、妊娠してるんです」
フライドポテトに添えられたマヨネーズに、メガネをディップするところだった。
「えっ、そんなこと聞いてませんよ。お父さん、許しませんよ」
えっ、父ならだいぶ昔に女と出奔しましたが。
かたまった私を置き去りに、わははと周囲が笑ったから、定番のジョークだったのかもしれない。
帰宅してから、なんとなく姉にその話をした。まさかあんた、と妹を振り返って目を吊り上げたので、これはうまく雰囲気を伝えられなかった私が悪い。
ああいうお父さんがよかった、といって妹が泣いた。
わあわあ泣いて、なかなか泣き止まなくて、あとで見たら私の部屋着の胸に、マスカラとつけまつげがついてた。
洗濯で落ちるといいんだけど。お気に入りだし。
あとつけまつげ、虫かと思ってすげービビった。
おやすみなさい。
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