虚構日記 2023/10/02

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虚構日記 2023/10/02

「一日2万円稼いだら、その日の仕事はおしまいにするわ」と夕食のとき姉が言った。  どこかで聞いたような話だ。  たぶん、料理を覚えたいが文字を読むと眠くなるという姉に貸したマンガ、『きのう何食べた?』のキャラだ。姉と同じデイトレーダーをやってるキャラがいた。  姉の稼ぎがどれほどか把握していないから、一日2万円というのがこれまでと比べて多いのか少ないのか分からない。  マンガのキャラは、そのあとジムで汗を流していた気がするけど、姉は車椅子でどこへ行くつもりだろう。宣言して満足そうだから、とりあえず突っ込まなかった。 「あと、レミおじさんからメール。一時帰国するあいだ、うちに泊めてほしいって」  誰だっけ。思い出せなくて妹の顔を見ると、肉じゃがの糸こんにゃくを大事そうに寄せ集めながら首を左右にした。そうだ、妹はレミおじさんには会ったことがない。  南米あたりで仕事してる親戚、と姉が言う。妹が、なにしてるひとかと聞いた。 「南米ってことは、カメラマンとか研究者とか、国境なき医師団とか?」  それ以外の仕事がいくらでもありそうだけど、私は特になにも思いつかなかったので、今度は姉の顔を見た。 「そう」  なにが、そう?  それより、レミ「おばさん」ではなくて「おじさん」が、親戚とはいえ女ばかりのこの家に滞在するのか。あまりいい気分はしない。  レミだから大丈夫、と姉が言う。やっぱりどんな人だったか思い出せない。女性のような名前、オネエで源氏名だとか?  うつむいた姉がニヤリと口角をあげたのが見えた。  リア充の皮をかぶった狂犬。そんな言葉が頭に浮かんだ。きっと仕事のしすぎだ。  おやすみなさい。
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