虚構日記 2023/10/04

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虚構日記 2023/10/04

 昨日のコンビニで思い出したことがある。  腹弱じいさんが店を留守にしてても、酒とタバコだけは誰も手をつけない妙なルール。コニャックなんて置いてなかったはずだけど、見ていたら頭に浮かんできた。  レミおじさんの正体は、きっとあの、日本語の流暢なフランス人だ。レミ・マルタンという、絶対に偽名だろという名を名乗った、筋肉ゴリラ。  姉はパソコンで、レミおじさんを泊めるのに必要なものリストを作っていた。意外と甲斐甲斐しい。  レミおじさんが来るのに、まだ数日かかるそうだ。日本への直行便がないから、乗り継いでくるんだとか。 「そのレミおじさんて、親戚といいますか、あなたのパートナーのことでは?」  なんとなくこの話題では「姉さんの」と言いにくくて、変にへりくだった言い方をしてしまった。  Evernoteにリストを打ち込みながら、だから親戚だろーが、とフランス語で返してきた。  籍を入れるとき、家では日本語を話すこと、とか契約に入れておけばよかった。タマナシだっていうから、夜の営みは無しだのあれこれ決め事しなくても問題ないだろと楽観したのがよくなかった。  レミおじさんがあのレミゴリラなら、妹は、養子にするとき何度か会っている。覚えていなかったようだけど、おおかた「まるたん」で記憶しているに違いない。  姉は見た目がすでに「姉」だったから、私と夫婦の体裁をとるのにレミマルタンが姉の代役になった。 ハーフで日本生まれで……と設定を作り込んだのに、外人顔と筋肉の威圧感を前に、不要な詮索をする者はいなかった。  必要があっての契約とはいえ、パートナーが女と結婚するのも、その女と夫婦のふりをするのも、レミタンは面白くなかったはずだ。  首から上だけおキレイなおフランス顔を思い出す。美形が怒ると迫力あるって、都市伝説じゃないんだ。  あのひとやっぱりおっかないから、今度会ったら「レミタン」て呼んでいいかな。  思いついて言うと、かつて一緒に何度も死地をくぐりぬけてきたというゲイカップルの片割れは、ようやくモニターから私へ目をうつし、少女漫画のように口をあけて微笑んだ。    おやすみなさい。
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