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オイラは知ってる。母ちゃんのヘソはポケットだ。ポンと叩けばビスケットが出てくる。でも、ちゃんと掃除しておかないと、ゴマが出てくる。
オイラは知ってる。母ちゃんはヘソのポケットに、ヘソクリを隠してる。タンスに隠すよりも安全だって言って、ずっとヘソに隠してる。
オイラにヘソクリを何度かっぱらわれても気にせずに、ひたすらヘソに隠してる。
オイラは時々、母ちゃんがグースカ寝ている時に、勝手にヘソを掃除してる。ヘソクリをちょろまかすためには、まずは掃除をしなくちゃいけない。だから、喜んで掃除してる。
んだけど、たいていめちゃくちゃ怒られる。
勝手に掃除をすると、腹がギュルギュルするらしい。
今日も今日とて怒られた。母ちゃんはヘソをいじくり回して、ヘソクリがなくなってないか確認した。ギャルルルルってヘソ怪獣が雄叫びをあげる。
母ちゃんは光の速さでトイレに消える。
あーあ。今日は収穫なしじゃないか。
ただ、ヘソを掃除しただけじゃないか。
オイラは母ちゃんが顔にキュウリをのせている間に、ヘソを覗き込んだ。怒られたけど、「じっとしてないとキュウリが落ちちゃうよ」って言ったら、母ちゃんは冷凍した魚みたいにカチーンって固まった。
うしし。これでヘソの中を探り放題だ、って思ったんだけど、体がカチーンってなってる時は、ポケットの口もカチーンってなるらしい。開かない。中を見られない。探れもしない。
くそぅ。
ある日、オイラは「どっか行け」って放り出された。
「ひどいよ、母ちゃん! オイラがいないと、ゴマが出るよう!」
「ゴマが出る方がいいってんだ! 人のヘソで遊びやがって! そんなことされちゃ、安心してヘソクリ隠せねぇってんだ! アンタ、人のヘソクリで作ったヘソクリ、たんまりあるだろ? 出てけ、出てけ! 勝手に暮らせ!」
捨てられたオイラは、トボトボ歩いた。
ちょろまかしたヘソクリは、もう全部使っちゃったからない。オイラはこれから、どうやって暮らせばいいんだろう。
とりあえず、落ち着きたくて、オイラはオイラのヘソを掃除した。
でっかいでっかいゴマをみつけて、それをフンって取った。
そうしたら、ヘソ怪獣がグルルルルって雄叫びをあげた。
オイラは近くの公衆便所に駆け込んだ。
スッキリした後、ヘソを見てみた。
そうしたら、でろ〜ん、って金が顔を出していた。
引っ張ると、ちょっと痛い。痛いけど、引っこ抜いた。
オイラはそれから、ゴマを育てることにした。
ゴマがでっかくなったら、それをフンって取る。
そいで、ヘソ怪獣が弱ったところで、ヘソ怪獣が隠し持ってた金をふんだくる。
あれ、もしかして、母ちゃんのヘソにあった金も、こうしてヘソから生まれた金だったのかなぁ。別に、ヘソクリってわけじゃなかったのかなぁ。
オイラはあんなことやこんなことを考えながら、ヘソから出てきた煎餅を食べた。
久しぶりに家に帰ってみた。
そうしたら、びっくり仰天。家が無くなっていた。
真っ平らな土地には、ブルーシートが一枚敷かれていた。
「金がなくなっちまって、こうなった」
そう言う母ちゃんのヘソには、でっかいゴマがあった。
とりあえずオイラは、ヘソから煎餅を出して母ちゃんにあげた。母ちゃんがガリボリ食べている間、オイラはオイラのヘソの話をした。
「じゃあ、アタシのヘソも、ゴマとったらヘソクリ出してくれるかね?」
オイラは久しぶりに母ちゃんのヘソを掃除した。
でっかいゴマをぐいっと取ると、ギャアアアスっとヘソ怪獣が雄叫びを上げた。
母ちゃんは草っ原に隠れて出すものを出すと、スッキリした顔で戻ってきた。
でっかいゴマがあったヘソには、硬貨が嵌っていた。
オイラはそれも、取ろうとした。
それはピッタリ嵌っていて、なかなか取れない。
うんとこしょ、どっこいしょ。
ふたりで力を合わせてそれを取ると、ヘソからジャラジャラ金が出てきた。
「やったよ! 億万長者だよ!」
母ちゃんは泣いて喜んだ。
オイラはまた、母ちゃんと暮らし始めた。
お互いのゴマをいい具合に育てて、ヘソ怪獣から金をふんだくった。
ビスケットとか、煎餅も出てくるけど、最近はそれをヘソ怪獣に食わしてる。
「食いもんだすなら、金をくれ」って言いながら。
オイラのゴマは、そろそろいいころ。
母ちゃんのゴマも、なかなかよさそう。
今日も今日とて、ゴマを取る。
出でよ、金!
グルルル、ギャアアアス!
〈了〉
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