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ほの暗いバーに甘い香りが強い紫煙が煙る、カラリ…と氷がグラスを鳴らす、硝子の灰皿に置かれた細巻きの煙草、落ち着いたジャズ、はだか電球にカウンター。
「こんばんは、やっぱりここにいた」
木目のドアが開く、錆び付いたドアのヒンジが悲鳴をあげる、古ぼけた客一人しか居ないボロいバー、ある意味…味があるそのバーに入店した朱色小紋の和装の少女は先に入って居た、女性客の隣に腰かける。
「こんばんは、珍しいですね…貴女が外で晩酌なんて」
「家に居ると嫁がね?毎日宴会だもの、たまには静かに呑みたいじゃない?」
そうですか…
女性客の興味ない返事はBGMに溶ける、少女はそんな女性を咎める事もなく、ウイスキーを注文すると改めて女性客に話しかけた。
「この一週間居なかったみたいだけど…仕事かしら?」
「知ってるくせに、誰かのケツ拭いですよ…馬鹿が、ロイウォミートがまた暴れましてね緊急要請です、革命ゴッコも大概にしなさいよ、本当…」
「そっちかぁ、シュレミーデ皇女の護衛かと思ってた、アハハ!残党狩りお疲れ様」
「そっちは私みたいな外れマスターには回って来ませんよ…たく、まぁ…ありがとうございます」
良いタイミングでマスターがグラスを少女へと手渡した、互いにグラスを合わせて打ち鳴らして酒を口に流す。
「久しぶりの洋酒だわ…美味しい」
「何時もは、東洋酒何です?」
「このナリ見たまえよマリー君?このナリで洋酒はあまり食卓に出ないでしょう?」
あぁ、確かにとその女性マリー・エルフィスはクスッと微笑んだ。
マリーの目に映る少女は若くて、マリーの知る東洋人の中でもずば抜けて愛らしく美しい、東洋人の特徴的な黒。
腰下まで伸ばした長く痛み一つない見事な黒髪ストレート、前髪は切り揃え、左右の揉み上げは顎下位で切り揃え、細目の眉、少しつり上がった目、瞳は黒く、鼻はあまり高くはない、口はきゅっと小さく、唇は柔らかそうで、パーツ一つ一つがこの少女に似合うように、洗礼されている、東洋人独特の平たい顔、しかし群を抜いている美形。
それに合わせた小紋、和装…極東には東極八州連合と呼ばれる連合国がある、その一つの和国日染で造られている伝統衣装、顔も身なりも東国仕様のその少女の毎日の晩酌にとてもじゃないが今傾ける酒類が頻繁に出てくるとは思えない。
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