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それやめろ。
「しょうがないなあ。どーしても聞きたい?」
「あ、どうしてもって訳じゃ……」
「聞けよ」
「へい! 喜んで!」
「居酒屋の人かよ!」
爆笑すんなや。でも篠原、何か楽しそうだ。
中学の頃の篠原っぽい。
それに。
あれだけモヤモヤして、悲しくって、ツラかった気持ちが……片想い中の篠原に話を聞いてもらってるうちに落ち着いてきてる。
もちろん、しばらくは苦しくて悲しいと思う。でも、何か頑張れる気がしてきた。篠原に偶然会えたのはラッキーだった。
そう、ラッキー……?
「なあ、篠原」
「ん」
「犬の散歩してたって事は、お前んちこの辺だよな……あれ! 犬がいない?!」
「ウチはあれ。カールは警備の人が連れて帰ったん、見てなかったの?」
「マジか!」
「公園も警備してるみたいだよ?」
カール君、全然見てなかったよ!
それに……え?
「あれが、篠原のうち? 篠原城?」
「城じゃねーし! 何言ってんの……あっは!」
また爆笑された。
いや、だって……うちの何倍だよアレ。
「腹、腹! いってー! く、苦しい……ひー」
「笑いすぎ。ほら、話の続きしろよ!」
「むり言うな! っはぁ? 篠原城? あっはっはっは!」
「そういや、篠原昔っからツボに入るとそうだったよな。これで落ち着け」
懐かしくなって、昔みたいに背中をポンポンと叩いてみる。
最初は『鬼姫』とか言われて怖かったけど、ビビりながら話しかけてるうちに、意外に気さくでおもしろくって仲良くなってったんだっけ。
……?
篠原が静かになった。
ヤバい!
高校生で背中ポンポンはマズかったか!
「……中一の時さ。私、周りからめちゃめちゃ怖がられてたじゃん? 家がヤバい系って勝手に言われて、キレたらヤバい金パ女って」
「あー……うん。ヤバかった」
「ちっとは否定しろよ」
「全然ヤバくなーい」
「大根役者かよ!」
指指すな!
笑うな!
恥ずかしいだろ!
「うちもそん時は私をほったらして、私けっこー荒れてた。でも、好きな人がそんな状況から救ってくれたんだ。毎日ビビりながら話しかけてくれてさ。で、仲良くなったらみんなに誤解だって言ってくれてさ」
「へえ」
「すっごく頑張ってくれて……すっごく優しくしてくれて、私に楽しい未来をくれた人なんだ」
俺みたいな奴、結構いたんだな。クラス委員だった俺も半ベソかきながら似たようなことしたっけ。
すげえな、ソイツ。
篠原にここまで言わせたよ。
「最初はさ、ウザいなコイツ! ベソかいてんなら来んなよ! とか思ってたけど……ビックリするぐらい学校が楽しくなっていったんだよね」
「俺は力不足だったな、今考えると」
「……にぶっ」
「こっそりディスってんじゃねえよ!」
「べー」
「あかんべえまでしやがった!」
でも、篠原……こんなにいい奴なのに 片想いなんてもったいないな。
佐倉さんが、キラキラと夜に月なら……篠原は暖炉かな。何か暖かく、そばにいる誰かを照らしそうな感じ。
何言ってんだ俺は。
キモ!
まあ、とりあえずこうなったら。話を聞いてもらったお礼に……篠原の恋がうまくいくように協力してみるか。俺の知ってるヤツなら何とかなるかもしれんし、な。
「な、篠原」
「いー」
「まだそれ続くの?!」
「何だよぅ」
「こんな事を言うのもなんだけど、せめてさ、お前の片想いがうまくいくように協力するよ。だから……泣いたのとかナイショにしてくれっと助か……」
「…………マジかっ!」
「スッゴい食いついた?! 目力強っ?! それに近い! 近いって!」
手ぇ離して!
それに何こいつ、めちゃめちゃいい匂い……。
ヤバい、一瞬萌えた。
でも、よかった。
篠原なら、きっとうまくいくよ。
「じゃあさじゃあさ! 上村は夏休みずっと部活?」
「んな訳ないだろ。たまには休ませろ」
「うっし!」
何だそのガッツポーズ。
不安になるからやめてくれ。
何か怖い。
「海行こうよ! お祭り! デー……でででででっ……でっでー!」
「レベルアップすんなや……は? 何言ってんの?」
「彼氏ができた時の為に、練習しておきたい!」
「いや、そんなん彼氏ができてから……」
「あ? 協力するって言ったくせにビビりかよ」
「はあ? ざっけんな! やってやらあ!」
「うっし!」
それやめろ。
お前……気合い入りすぎじゃね?
でもさ、お前の彼氏になれる奴は、きっとすっごい幸せだよ。
そんな気がしてきた。
いっぱい幸せになれるといいな。
頑張れよ。
俺も頑張るよ。
しばらくは諦められなかったりウジウジすっかもしれないけど……同じようにずっと片想いをしてきたお前が、話を聞いてくれた。励ましてくれた。
今日、篠原に会えてよかった。
少し回復できた気がする。
でも、彼女いない歴=年齢の俺がどれだけの事をしてやれんのかって言われたら笑うしかないけど。ははは。
……あ!
「なあ、お前の好きな奴まだ聞いてない」
「ちっちっちっ。練習が終わるまでナイショ!」
「何だよそれ……。ちなみに練習っていつまでだ?」
「……練習が終わるまで?」
「訳わかんねぇよ!」
「うっし!」
「それやめろや! 何か怖いんだよ!」
〜完〜
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