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鬼姫っ?!
ずっと泣き続けて、やっと涙が止まった。
泣きすぎると、喉がからっからになるのか?
とりあえず横に置いといた水を一気飲みする。飲み足りないけど、水道まで歩く気力もない。それに飲んだらまた泣きそうで、怖くて動けない。
「なっさけな…………」
スマホを取り出して、時間を見る。もう夜の九時だ。明日も朝練があるし、月末には期末があるから勉強だってしとかないと。
立て。
立つんだよ!
……動けない。
身体と心が動いてくれない。
というか、ここからどうやって帰るんだ?
スマホで現在位置、調べるか……。
とんっ。
ん?
何か転がってきた。
ゴムボール?
何でいきなり……?
拾い上げた瞬間、荒い息深いが聞こえてきた。
はっはっはっはっはっ。
「わうー!」
「犬ぅ?! 待って待って! 俺、無実!」
茶色っぽいミニチュアダックスフンドとゴムボールの奪い合いっぽくなって、慌てて手を離す。
自由になったゴムボールをくわえたワンコ様は尻尾を振りながらお座りをしている。何、この可愛さ。
でもさ、王子様みたいな君に質問です。首輪にリードついてないよね? 君の飼い主はどこにいんの?
あ、誰か来た。
王子様も振り返って、ダッシュで飼い主っぽい人にじゃれついてる。
王子様、めっちゃ可愛いな!
飼い主は……女の子?
あれ?
知り合いにそっくりな気がする。
目力溢れる、切れ長の猫目。
長い黒髪。
俺くらいの身長、モデルみたいな体型。
でも、まさかね。
もしいたら、偶然ってレベルじゃないしな。
「カール、これで遊んで待っててね。……そっ。んんっ! そ、そこにいるのは上村君じゃ、ないですかー」
何、その棒読み。
というか!
「鬼姫! 何でお前がここにいんの?!」
「…………あ? 鬼?」
ぎゃー!
そっこーでキレやがった!
鬼姫って呼び名、好きじゃなかったもんな。
ごめんなさい。
「篠原夏姫さん……どうしてここにいらっしゃるんですか?」
「…………ふう。私をそう呼ぶのは、もう上村君くらいだよ?」
いや、お前の知らないところでめっちゃ呼ばれてるから!伝説レベルで語られちゃってるから!
篠原夏姫。
” 篠原の御令嬢 ”
超金持ちの家のお嬢様として、有名人だ。
そして。
” 五中の鬼姫 ”
とも呼ばれてた。
こいつ、中学の時に伝説ばっか作ってたからな……。ここんとこ最近キレたところ見てないけど、キレるとマジでヤバかった。
そんで、今。
俺もヤバい。
よし、帰ろう。
頑張れ!
今ここで、気合いを見せろ俺!
「……まだ何か、言いたそうな顔してますね」
「いや、別に何も! お、俺、帰りまっす! ごきげんよ……」
「あ”あ”?」
「あはは! へとへとなの忘れてました! 座ってていいですか!」
「もー、変なことばっかり言って。上村君はどうしてここに?」
帰してくれない?!
何で聞く気満々なの……。
同じ学校だから、今度でも良くね?
個チャもできるんだから。
でもこいつ、いい奴なんだよな。
昔から俺の片想いも知ってるっぽかったし。
少しくらい、話してもいっか……。
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