ごめん!

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ごめん!

「あ、ごめん! いや、あの、その……」  慌てて目を拭いて、篠原を見る。  俺、最低だ。これは篠原じゃなくてもキレるだろう。 「ごめん!」 「…………」  何も言わない篠原に、恐る恐る顔を上げる。篠原は、不思議な表情でジッと俺を見ていた。  怒ってる訳でも、悲しそうな感じでもない、静かな顔だ。  え?  あれ?  嵐の前の静けさってやつ? 「あの、上村君」 「は、はいです」 「昔みたいな感じで話してもいいですか?」 「お、お好きになさって下さい」 「こら」 「あいたっ?!」  頭を軽く叩かれた。   「私もずっと片想いして……んん? 意外と昔の話し方忘れてるかも? 3年の努力の成果だね、エヘン」  確かにどっか違うな。  今と昔の中間くらいか。  片想い? こいつ、あの頃も今もモテモテじゃなかったか? モデルみたいなスタイルで、顔も雰囲気も超美少女のお嬢様のこいつが? 「お前、片想いしてんの?」 「ん。だから上村の話、イタタタって感じで聞いてた。私も何もしてないし」 「そうだったんだ。俺、何も知らないくせにキツイ事言ってごめん」 「上村じゃなかったら胸ぐら掴んでるかも」 「げっ……でもホントごめんなさい!」  よかった。何かわからんけど上村でよかった! 「ま、私の片想い相手は好きな人がいるからっていうのもあるんだけどね」 「え、何かそっちの方がヤバそう……」 「好きな人に少しは見て貰えるように頑張ってるんだけど、脈なしなんだわ。たはは」  マジか。  金持ちのお嬢様で、こんなに美少女でいい奴なのに……こいつも結構大変なんだな。  ん?  待てよ? 「もしかして、篠原さ」 「ん?」 「その人の前でキレて、避けられてるとか……」 「……あ?」 「軽いジョークです!」  今、猫目の瞳孔がめっちゃ細くなった! マジで怖い。……そうだ。中学の時、同クラの女子がしつこく他校の運動部に絡まれてた時にこいつ、こんな眼してた!  カウンターワンキックKOの衝撃……!  「すみません命だけは……!」 「どうしよっかな〜」  何か笑ってる。  セーフか? 「あ、そうだ! お、お前の好きな奴って誰? 中学の頃からなんだろ? 俺の知ってる奴?」 「ごまかすな! あー………………知ってるね」 「マジか! 誰々?」 「……殴っていい?」 「何で?! いや、聞きません!」  いやいやいや!  篠原の怒りのツボがわからくなってるよ!  失恋してヤケになって馬鹿みたいに走り回って、最後に篠原にKOとかどんだけだよ……。
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