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いっそどちらかに恋心でも抱ければ、友達との恋バナにも混ざることができたのだろう。けれど、あの二人の間に自分が割り込むことなど全く考えられなかった。むしろ、そんな自分は邪魔でしかない。
かといって、クラスでも流行りのボーイズラブ対象として彼らを消費しているわけでもない。BLは作品としては好きだが、現実の人間で妄想を巡らせようとは思えなかった。
本当に『推し』としか表現できないのだ。一番近いのは、仲が良いことを売りにしているアイドルグループへの純粋な好意だろうか。
美味しいものを食べ、楽しく笑い、心を痛める瞬間が極力少ない毎日を過ごしてほしい。その上で、可能な限りでいいので、二人が仲良く会話しているところを見せてほしい。
友達にそのままを伝えたら、「孫を見るおばあちゃんか癒しを欲しがる疲れ果てたOL視点だよ、それ。え、あんた何歳?」と若干ドン引きされた。失礼な。
そんな身勝手で、けれど本人としては切実な欲望を胸の内に秘めながら、わたしは彼らをひっそりと観察していた。
誤解しないでほしいのだが、別にストーカーのように常に二人を追いかけて監視しているというわけではない。教室や廊下で見かけたとき、二人にだけ意識と耳を傾けている、という程度のものだ。双子が揃ってる場面に出くわしたら、その日は一日中、上機嫌でいられるくらいの遭遇率だと思ってほしい。いや、遭遇率が高くても、きっとずっとハッピー気分だけれども。
今日は、そのはちゃめちゃにラッキーな日だった。先日は貸出中だった本がそろそろ返却されたかもしれない、と図書室に足を踏み入れたわたしの視界に、偶然双子が映ったのだ。
まず、部屋の一番奥、人気が少ない隅っこに設置されている机に、翠くんが本を広げて座っていた。翼くんは、翠くんの近くにある窓の外側に立っていた。少し距離があるため、翼くんは多分、翠くんが図書室にいることには気づいていないだろう。わたしが立ち止まった本棚の前は、翠くんからは見えにくく、けれどわたしからは二人が視界に入るという最高の位置だった。
翠くんは、手元の本ではなく窓の向こう側にいる翼くんを見ていた。教室にいるときのにこやかさはなく、無表情のまま、ただ真っ直ぐに外を眺めている。普段の愛嬌はなりを潜め、窓からの光に照らされた横顔は美しい人形のようだった。
その芸術品のような顔が、ふ、と歪む。
何事だろう、と彼の視線の先を追えば、さっきまで一人で立っていた翼くんのそばに一人の女子生徒が立っていた。確か、可愛いと評判になっている一つ年下の女の子。その子は、どこかモジモジした様子で、翼くんを上目遣いで見ていた。
これはいわゆる、告白のための呼び出しというやつだ。
身内の告白シーンに出くわしたことになる翠くんに思わず視線を戻せば、そこには予想していなかった光景があった。
ひそめられた眉、切なそうに細められた目、それから、何かに耐えるようにきつく結ばれた唇。
人形のように可愛らしい顔に、とても人間らしい嫉妬の炎が浮かんでいた。
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