銀の月

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どこで飲む、と聞かれて、迷わず「プールサイドのソファ」と答えた。 満月があんまりにも綺麗で、薄明るい影が見えるほどだったから。 「月を味わうのか?」 彼は、日本で覚えた月見の文化を、いたく気に入っていた。 秋にやろうと言っても、晴れの満月とあればどんな季節であろうが、いそいそと酒を片手に自宅マンションのベランダに出ていく。日本酒も覚えて、わざわざ徳利とお猪口に仕立てて持っていくのだった。 これでツマミは俺手作りのパンがいいというから、舌が馬鹿としか言いようがなかった。 「まぁそれもあるけど、やっぱここに来たら外でゆっくりしたいじゃん」 ちなみに俺は日本酒よりビール派。彼の地元のクラフトビールを気に入って、取り寄せて飲んでいる。ここにも持ってきた。 ごろ寝出来るサイズのソファに、寄り添って座る。クッションを枕にすると、足を伸ばしてそのまま眠れるほどだった。 彼にもたれかかり、ゆったり脚を伸ばす。 彼が用意してくれたツマミは、バーニャカウダとシェブールタイプのチーズ、切り分けられたバケット。 「やっぱりツマミはハニーのパンがいいな」 食べる前から、彼はそんなことを言っていた。 「今日は来たばっかりだから作ってねぇよ、明日な」 パンを作る材料は持ってきてる。こいつは俺が作ったパンじゃないと、食べないから。
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