銀の月

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「変わりない、多分」 眼前の景色が壮大過ぎて、それだけ言うにとどまった。新鮮な感動と懐かしさが混在して、かつての鮮明な景色を咄嗟に思い出せなかったからだった。 横に立った夫は荷物を下ろすと、大きく深呼吸をした。 「相変わらず素晴らしい眺めだ。年に一度は来るべきだな」 潮風も不思議と生臭くない。少し強めの風が日差しの強さを緩和して、余計に爽快感が増した。 「とりあえず部屋に入ろう」 夫はまた荷物を抱え、すぐ目の前の階段を降りた。別荘内は白い壁が続き、時折壁に沿って植木や椅子、テーブルがおかれ、小さな村が丸ごと入ったような雰囲気だった。 大学生二人が見たら、飛び上がって喜びそうな異国間と幻想が入り混じっている。 「なんかワクワクしてきた」 俺だってそう思っているんだから。 「今回も俺とお前しかいない旅さ。のんびり過ごそうぜ」 夫は別荘中程にあるソファの置かれた広場まで来ると、荷物置いてウインクした。 滞在期間は一か月。浮世を離れて少しの間天国へ旅行に来たみたいな感覚を、しばらく味わえそうだ。 「んんーっ」 まっすぐに伸びをする。全身にこの空気と爽快感を纏いたくて。 ー都合により12日に2話分掲載しますー
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