銀の月

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あとはある程度の生活必需品や雑貨を持ち込んで、なんならそのままここに置いておくつもりで購入した。 「とりあえず荷物解くわ」 陽射し良好な部屋に入る。ホテルのスイートルーム並みの広さと安定感。懐かしさと思い出のくすぐったさを味わうのもそこそこに、奥のクローゼットまでキャリーを転がした。 「ここさ、使っていいんだよな、今更だけど」 1ヶ月もいるのにキャリーカートから出し入れするのはしんどい。部屋の入り口に立ち尽くす夫に目をやると、夫は国の代表選手か何かみたいに、片腕を胸に当てたままはらはらと涙をこぼしていた。 「えっ、何」 なんなら肩をひくつかせながら涙をこぼしている。 「思い出したんだ、お前とここで暮らして結ばれたあの日のことを」 「えっ?」 「ここは全てが始まった部屋さ」 「それだけで? 泣いてんの?」 危うくバカじゃねぇのかと言いかけて飲み込んだ。こういうことに慣れていないこっちがバカなのだから。 「まぁいいから荷物片付けろや、勝手にクローゼット使うぞ」 この分じゃ何聞いたってしばらく上の空だろうから、勝手にやらせてもらう。
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