銀の月

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「っていうかさ、その、仕事じゃねぇんだし、あんまり用意させるとか偉そうに言わない方がいいんじゃねぇか?」 物言いがちょっと気になって、ほろ酔いしてきたときに彼に言った。赤い海にとろける蒼い夜空の心地よさには、無粋な話だったかもしれないけれど。 使用人とはいえ、人のことを粗雑な言い方で扱うのはどうかな、って思ったりして。 「ああ、俺も言ってしまってから悪かったなと思ったところさ。気をつけなくてはな」 とはいえ、俺と出会ってから、傲慢な物言いは随分落ち着いたと聞いている。特に仕事場での物言いは、激しく強い仕草から落ち着いたたおやかなものになったと。 会社の社員から、彼の目を盗んで感謝の意を伝えられたことは数知れない。 「まぁ、今は飲んで食べて、バカンスの始まりを祝おう」 彼は俺の持っているグラスを重ね鳴らした。 俺と彼の間にワイン、そして日本から持ってきたツマミ。 漬物を挟んだチーズで、これを見た使用人の彼はとても驚いていた。日本食を初めて見たのだという。 「いや、全然日本食じゃねぇからこれ、強いて言えば漬物だけだから」 慌てて弁解したものの、彼は目を輝かせて 「たべてみたいです」 と言った。もちろん構わないから食べてもらったが、口に合わなかったらしく困った顔をされたのだった。
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