銀の月

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はーいと返事をしながら、頭の片隅につい角砂糖5個の衝撃がチラつく。 食事だから甘くはないと思う。けれど、けれど。 酒が好きな辛党には、厳しい展開が目に浮かぶ。 ダイニングテーブルに着席すると、運ばれてきたのはサラダやワイン、焼きたての肉で、あまりにも普通すぎて、ちょっとホッとした。 「どうしたハニー、和食が恋しくなったか? すまないな、俺のリクエストで肉料理にしたんだ」 500gもありそうな、ゴツい肉塊を切り分けながら、夫が言う。 「いや、そういうわけじゃない」 それよりは少ない量の肉を切り、しっかり咀嚼した。 後片付けを終えた彼は、そのまま帰って行った。大理石の床に正座して三つ指ついて挨拶して。 「え、お前わざわざこんなことしろって言ったの?」 ドン引きする俺に、彼は慌てて言い返した。 「何を言っているんだ! そんなことは頼んでいないぜ! 彼が日本の作法を真似たと言っていたんだ!」 「マジかよ。作法だけどさぁ」 彼に、あそこまでしなくていいと伝えて欲しいと言った。 日本の礼儀作法は、ちょっと面倒くさい。日本が好きだという彼に、あれこれ教えてやればいいだろうか。 でも仕事のできる彼は、俺たちに夜用の酒とツマミまで用意してくれていた。
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