97人が本棚に入れています
本棚に追加
用意してもらったつまみを順に手に取りながら、他愛のない話を続ける。
月夜で薄明るい海を眺めていると、心も体もスッと力が抜けていくのがわかった。
波の音も穏やか。このまま朝まで過ごして、朝日まで拝みたくなってきた。
「ハニー、雨が降らなかったら、ここでオールしないか。キャンプだ」
「キャンプっていうのかそれ?」
「外で飯や語らいを楽しむのがキャンプだと教わったぜ」
雨は降らなそうに見える。見渡す限り、月一つと無数の星しかないんだから。
「まぁ、悪くねぇな」
俺も同じことを考えてた、なんて可愛いことは、恥ずかしいから言わない。
世界で一番信用してるやつと、自然の中で、酒を飲みながら過ごす夜が、楽しくないわけがなかった。
「よし、じゃあ、酒足してくるか」
勢いをつけて起き上がる。プールの水面が鏡みたいに澄んで、月がもう一つ浮かんでいる。
軽く伸びをすると、夫は「セクシーだな」と言って笑った。
「あ? 見慣れてんだろ」
「月明かりに照らされる姿は、見たことがない」
「そんなことねぇって、ベランダでたまに飲んでるだろ。同じだよ」
「マンションは街の明かりと音がうるさいから、今とは違うじゃないか」
俺には同じようにしか感じないが、彼にはそう感じるのか。
最初のコメントを投稿しよう!