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「女神みたいだ、美しい」
うっとりとした低音。しまいに目を細めて、じっくり見つめてくる。
片手にブランデーの入ったグラスを持ちながらそんなことを言うから、胸の奥がくすぐったい。
「あのな、女神は結構だけどよ、目つきとその喋り方、よくねぇぞ」
むずむずに耐えかねて、顔を顰めて言うものの、月明かりがあるとはいえ暗がりで、功を奏した抗議とは言えなかった。
「ハニーは俺にとって、全知全能の女神さ。それは間違いないだろう?」
「そもそも女じゃねぇよ」
「美しいことには変わりない」
「美しくもない」
反抗期の子供みたいに、彼の言葉を折って返す。
ツンと拗ねたふりをしていると、困った顔をして微笑む。
「そういう気まぐれなところも、愛らしいんだ。お前はいつまでも、俺の手の内で静かにしてはくれないな」
気まぐれは、こいつと出会う前からのことだから、もう直すことはできない。
でも、こいつと出会ってから、少しは素直になったつもりなんだけどな。
「おいで、俺の女神よ」
彼が両手を伸ばして、俺を呼ぶ。
素直に従った。彼の膝にまたがり、月明かりでより彫りの深くなった顔を見つめる。
「満足か?」
ニヤリと笑うと、夫はつられて笑いながら、俺の尻を撫でてくる。
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