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「しかし青いなぁ、空」
日本じゃ絶対言わないことを口走ってしまった。広いし青いし、見ている景色がまさに非日常で、普段からのお陰でいい暮らししてるくせに、ついつい羽を伸ばしたくなる。
「お、来たぜ!」
彼が陽気に声を上げた。サングラスを上げて、その視線の先をなぞらえて見る。
「え?」
目線の先には高級車。ではない。
デカい台車をくっつけたチャリンコ。
細身の褐色の肌の男が、ワイシャツとベストという出立ちでそのチャリを漕いでいる。
「え? え?」
名前はわからないけど見るからに高そうな外国車の列に、チャリが突っ込んでくる。
「えっ、ちょっ、マジ?」
高級車を期待していたわけじゃないにせよ、そのまま突っ込んでくるのを見ると、彼の言う「来たぜ!」は間違いなくこれのようだ。
「ハニー! 素晴らしいだろう、リゾート感が出ているだろう!」
「はぁ」
高級車、高級車、チャリ、高級車、の並び。
周りわんさかといるセレブは気にしたようではなかったけど、正直落差がすごくて恥ずかしい。
「高級車ばかりでつまらないから、趣向を凝らしてみたのさ、どうだ?」
やってやった!という顔をしてこっちにウインクしてくる。恥じらいはあれど、俺が彼に悪態をつく理由はないから、さすがだな、とだけ返した。
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