銀の月

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大声で話さないと聞こえないくらいのとんでもないエンジン音とともに、俺と夫は荷台に積まれた。彼の運転が悪いわけじゃないが、うるさいったらない。 でもすぐ目の前にエメラルドグリーンの海と真っ青な空。荷台でもいいかと思い始めていた。 「キューピッドたちも来たらよかったのに、残念だな!」 夫は行きの飛行機から同じことを繰り返し言っていた。 「仕方ねぇだろ、急に言うから」 そう、出発の前々日くらいに誘うから行けるわけもないのだ。 「簡単なことだろう、パスポートがあればすぐさ」 「パスポート取るにも時間が必要なんだよ」 今の若い奴は海外なんか行かないらしいと言うと、怪訝そうな顔をしていた。けれど実際二人とも海外経験はないとのことで、行きたいとも思わないと話していた。もちろんパスポートなんか持っていない。 ネット経由であれこれ出来る世の中だから、いちいち外へ行くのも怠いのかもしれない。それは俺もわからないではない。 「カノジョの方は仕事柄行ったことありそうなのにな」 「ああ、俺もそう思う。意外だ」 カノジョの活躍の場はどんどん広がっていた。それもこれも彼の会社とのコラボの影響だった。活躍の場とは裏腹に表に出たがらないカノジョは、夫の会社の広告には積極的に参加してくれていた。
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