銀の月

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道は昔見たことのある通りに出た。視界が開けて海が一望できる。初めてここに来た時に見た景色だった。 「相変わらずすげぇなぁ」 視界に青しか映らない見事な景色は、日本にいたらなかなか味わえるものではない。 つい日本語でぽろりとこぼすと、夫より先に反応したのは運転手の彼だった。 「とても、ふうこうめいびです」 そんな言葉よく知ってんなっていうのと、エンジン音すげぇのによく聞こえたなっていうのと。 「住んでてもそう思うの? 見慣れねぇの?」 つい運転席に身を乗り出して日本語で尋ねた。この島で日本語を喋るのも正直新鮮だ。前回は英語以外で誰かと話した記憶がないから。 彼は少し黙って、ええと、と言った。 「うーんと、ずっとここに住んでても、綺麗だなと思うか?」 少し噛み砕いて伝える。彼はその時は英語で納得した旨のことを言った。 「きれいとおもいます」 そして弾んだ声で返してきた。たしかにそりゃ綺麗だと思うか。海の透明度なんか、精製された水にも等しい。生まれ故郷かこんな海も空も綺麗なところなんて、ちょっと羨ましいよな。 「何の話をしているんだ?」 ここではアウェイの夫が首を傾げる。
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