銀の月

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「別に。大したことない世間話だよ」 英語で答えると、雇われ者の彼が英語で「日本語を教えてもらいました」と答えた。 「本当か! ハニーにどんどん教えてもらうといい、翻訳家だから語彙も豊富だぜ!」 夫は歯を剥き出して笑う。 「あんまプレッシャーかけんなって」 彼に対して、のつもりだったが、夫は俺に対してのことだと思ったらしい。 「なぁに、照れることはないぜ! ハニーの通訳に俺の仕事の幅がどれだけ広がったことか!」 「そういう意味じゃなくて」 まぁ、ビジネスパートナーとしてもきちんと働いているつもりではいるが。じゃなくて、初対面の雇い主の妻なんて、そこにいるだけで気を遣って嫌になるだろっつう話をしてんだって。 「はい、もしよければ、おしえてほしいです」 彼は丁寧に、しっかりとした日本語の発音で言った。 「彼はなんと言ったんだ?」 わからぬは、何度日本語を教えても甘えて一つも言葉を覚えない、夫ばかりだった。 「お前もこれを機に、みっちり日本語教えてやろうか?」 軽く夫の肩を叩きながら言うと、夫はただただ苦笑いするのだった。 車は見覚えのある大きな門の前で止まった。初めてここに来た時にも見た、要塞の入り口のような門だった。
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