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タラップを降りる。
あの時と変わらず、生臭くて乾燥した空気。
「変わってねぇなぁ」
ため息混じりに呟いたら、先を歩いていた夫が手を伸ばしてきた。
「お姫様、お手をどうぞ」
刈り上げてきた頭をつるりと光らせ、ニヤリと笑いながら見てくる。
その手を軽く叩いてやると、大袈裟に痛そうな顔をした。
「そんな痛くねぇだろ! ったく」
「これは治療が必要なレベルだぜ」
眉間に皺を寄せるが、サングラスの下の様子がわからず、大根役者ぶりがわからない。
「へぇへぇそうですか、じゃあついでに反対側も治療必要なレベルにしてやろうか」
反対の手は少し強めに叩いた。夫は本当に大袈裟に痛がりながら、屈強な腕で俺の大型スーツケースを抱えた。めんどくさい奴だ、可愛いけど。
直滑降の日差しは、湿気がないせいか意外と暑く感じなくて、気温が30度を越していることが信じられないくらいだった。日本とはえらい違い。
「久しぶりの別荘だなハニー、リゾート地専用の滑走路を作っているところだそうだが、まだ完成していないから、懐かしい空港から旅を始めよう」
彼はサングラスをずらしてウインクした。旅を始めよう、か。確かに旅っちゃ旅なのか。
「くつろぐだけで、何とも思わないで来ちゃったけど、旅だもんな」
「そうさ。毎日旅に違いないが、今回は特別さ」
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