1.祖光院

1/1
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/6ページ

1.祖光院

水戸街道は千住より水戸に至れり。例の如く商い道具を整え、残暑厳しき巷に出で、葛西社に参り、軈て松戸への渡し舟に乗りたり。やや早き一服なれど、松戸社の近傍なる菓子司にて、羊羹を頬張りつつ、媼と田畑の出来などを論じぬ。 4db713bf-ef80-4b76-beb7-c9b2eddbc2ce 松戸宿を出で街道を逸れ、最近開墾されし、金ケ作なる土地に向かえり。天明期の飢饉に苦しみし、川越近傍の民の移り住むと媼より聞けり。さらに、菩提寺を勧請せんとすれど、一人の禅僧も肯わぬ(うべなわぬ)が故に住職自ら参り、祖光院の開祖となりとの言い伝えありとか。 墓畔に彼岸花麗しく咲けり。 dd5b33e4-b962-4c14-8348-f25b30cd8c31 見飽くることなく赤き花、稀に混じりし白き花を見るうちに、作男の近寄り腹の痛みを訴えし。熊胆丸を与え、生水を避け、消化良きものを少しずつ摂るべしなどと告げし。それを眺めおりし僧侶吾を庫裏に招じぬ。はらいた、づつう等使いやすき薬を並べれば、期せずして顧客の拡大と成れり。 6e33483b-090f-4f8c-90b0-4f7ce748aef9 陽も傾き始めれば蘇羽鷹社に立ち寄りながら小金宿を目指せり。社は馬橋城の故地なれば見晴らし良し。山岨(やまそば)の高き地の社なれば蘇羽鷹と称するやあらん。 1730d313-158a-431a-9247-6b829847eb0d 小金は賑やかなる宿場なり。 56c78409-4ed3-494b-ae10-f40c1026bd4b 投宿せる旅籠にて遣り手頻りに誘いぬ。数度断りたればつくづく運なき妓女なりと嘆息す。ふと心動き誘いに応じたるは天邪鬼の性分なり。仔細を述ぶるは野暮の極みなれば、  彼岸花身の上話を宵に聴く
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!