0人が本棚に入れています
本棚に追加
四日目
「と、まあそういう夢なんだよ」
「なにそれおかしいよ」
ストレートの長い髪をかきあげ、江梨子は困った顔をしながら笑ってた。
「だろ?」
「あんた夏休みのあいだ変なことしなかった?神社のお賽銭盗んだり、お墓のお供え物くすねたり…」
「しねえよ!どこのいたずらっ子だよぼくは」
また江梨子にゲラゲラ笑われた。まあそうだよな。ふつうそうだよ。こんなバカみたいな夢の話されたら、する反応ってそんなもんだよな。
「まもる今日は?」
「今日は部活」
「そう、じゃ一緒に帰れないね」
授業が終わってバスケット部の部室に行く。夢の話はあれからしなかった。一年生の部員たちがもう着替えていた。
「あ、先輩、小宮先輩が探してましたよ」
カゴに入れたバスケットボールを運びながら一年生のひとりがそう言った。
「マネージャーが?何だろう」
小宮美知子はバスケット部のマネージャーだ。同じ二年だがクラスは違う。その小宮が体育館の入り口に立っていた。
「まもるくん」
「おお小宮、どうした?」
「ちょっと話があるのよ」
「話?なんだよ」
「ここじゃちょっと…」
小宮は恥ずかしそうにうつむいて歩き出した。これはひょっとして告白か?いやいやそれはないよな。小宮は体育館の横にある道具倉庫裏にぼくを連れて行った。
「あのさ小宮…」
「笑わないで聞いて。あたし見たの」
「見たって何を?」
「あなたが江梨子ちゃんを突き飛ばすところ。電車の来るホームで」
「はあ?」
いやいや何を言っているこいつは?見たって言ったが、江梨子はさっきまで同じ教室に…いやあの夢か?…いやありえない!
「そういう夢を見たの」
「バ、バカバカしい!夢の話かよ!」
「聞いてまもるくん。あたしときどきおかしな夢を見るの」
「ちょっ…」
「いいから聞いて。その夢ってときどき正夢になるの。そういう夢ってきまってハッキリと見えるの。現実と区別できないくらいに…」
こいつ頭がおかしいのか?いやそれにしちゃ真剣だし、思い当たることもあるけど…いやいやそれはちがう。これはこいつの妄想だ。絶対そうだ。
「そいつには名前があるのよ」
小宮は続けて突拍子もないことを言った。
最初のコメントを投稿しよう!