五日目

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五日目

ぼくは鏡の前でずいぶんの時間、自分を見ていた。昨日、学校で小宮に言われたことが頭から離れないでいる。 ――名前があるのよ あいつはそう言った。 「名前?夢の名前か?」 「ちがうわ。強いて言うなら予兆よ」 「予兆?おかしな名前だな」 「ちがうよ!そいつの意味よ」 わからない話にますますわからないことを言い出した。まあ青春期における一過性の妄想性パーソナリティ障害だよなこれきっと。まあこじらせたらことだけど。 「あーわかった。つまり夢の予兆、てか予知夢を見たんだってことか?まあそういうのはストレスとか重なってさ、こういう時期だしさ」 「あたし頭が変になったわけじゃないよ。小さいころからそうなんだ。おじいちゃんやおばあちゃんが死ぬ一週間前にそれが見えたし、うちの犬が車にひかれて死んだのも夢で見たの。でね、そいつが言うには…」 ――おまえの好きな相手が死ぬ。しかしその前におまえだ 「はあ?」 「あたしね…まもるくんのこと…だから…」 あーなんだ…これは告白か。それもかなり変わった告白方法だ。なるほど、夢のせいにしてしれって告白して、うまくいかなくてもだれも傷つかない。夢のせいにしちゃえばいいんだから。 「あーおまえの気持ちはわかったけど、いまはそういうことを考えている暇はないんだ。来週は試験だし、その前にリーグ戦があるからな」 「ねえおねがい信じて!そして気を付けて!」 「信じるけど、そう言うのが片付いたらね」 これ以上つきあっていられない。小宮はかわいいけどぼくの好きな子はほかにいる。そういうわけだからごめん、小宮。 部活が終わって下校するころには外はすっかり暗くなっていた。夜道を駅に向かって歩くと、正面に大きな月が見えた。電車に乗り、家に向かうその道でも月が見えた。いや見えたんじゃない。月に見られている…そう思った。そうして小宮の顔が浮かんだ。それは脳裏からずっと離れなかった。 …名前って、いったい…。そういやそれを聞かなかった。夢の名前を。 そうしてその晩、また悪夢を見た。こんどはぼくが小宮を絞め殺す夢だった。
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