六日目

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六日目

小宮は今日、休んだ。それは三時間目が終わって知らされた。 「手紙?」 「はい。小宮先輩から」 「いつ?」 「昨日です。今日は休むからって」 「ふーん」 バスケ部の後輩がそれを届けてくれた。手紙と言ってもただノートを折りたたんでテープでとめたものだった。 「意味わからん」 そうぼくはつぶやいてそのノートの紙片をひろげた。そこには漢字で二文字、『夢魔』と書いてあった。 「なんじゃこりゃ?」 「どうしたの?」 江梨子がぼくの机のところにやって来て、ぼくが首をかしげてみているその紙片を覗き込んだ。 「部のマネージャーが寄こしたんだ。きっとなんかの嫌がらせさ」 昨日ふったんで、そういうことをされてもおかしくないと思った。 「だったらよっぽどのことをしたんじゃない?まもるくん」 「な、なにもしてねえよ!」 「ふーん、ナイトメアは呪いよ。それをかけられたら命がないわ」 「お、おい!」 ナイトメア?ああ夢魔ってことか。 「あははははは。冗談よ。ナイトメアはヨーロッパじゃボギーって妖魔のことを指すけど、イギリスじゃ黒い馬の夢魔ね。どっちも架空の伝承よ。まあ一部では死神って説もあるけどね」 「死神?」 「死神が前もって告知するの。夢のなかでね。それを受けた者は一週間以内に死ぬ、みたいな」 「なんだおとぎ話か」 まったく小宮のやつ人騒がせな。フラれたからって腹いせにそんなめんどくさいことしやがって。でも気になるな…一週間って。 放課後はリーグ戦の初日だ。小宮は来なかった。だがすぐそんなことは忘れ、試合に集中した。試合は勝った。 帰宅したらすぐに飯を食ってシャワーを浴びた。疲れていて風呂には入りたくなかった。部屋でベッドに寝転ぶと、すぐにウトウトした。あしたは日曜日だ。ずっと寝ていよう。夜風が気持ちいい…あれ?なんで窓が開いているんだ?そう思ったが、目は開かなかった。 「なんでなにもしなかったの?」 そう聞かれた。冷たい手が首筋に触れた。あたりは真っ暗で、その手が誰のだかわからない。いや声でわかる。江梨子の声だ。 「なんで殺したの?」 そう聞かれた。もっと冷たい手が頬を撫でた。鳥肌が立った。その声も知っている。小宮の声だ。 「おまえが死ねばみんな助かるぞ?」 そう声が聞こえた。足の方から何かが這いずってくるのがわかった。それは呼吸もしていない、体温もない、まるで大きな人形のようなモノだった。やがてそれはぼくに覆いかぶさるようにぼくのからだを締め付けた。ぼくは叫ぼうとしたが、冷たい手が喉を締め、声が出せなかった。 「だれ…?」 それだけ言えた。ぼくはもう恐怖に取り囲まれて、頭がおかしくなる寸前だった。覆いかぶさったそれは、氷のような声でぼくに答えた。 「わたしはナイトメア…あなたに会いに来たわ…」 「いやだ!いやだいやだいやだ!」 叫ぶ代わりに大きく首を振った。恐怖を振り払うように思い切り振った。そうしてぼくの首がボトンと、落ちた。 目が覚めた。びっしょりと寝汗をかいていた。喉がヒリつくほど渇いていた。また悪夢を見たんだ。しかもよりによってナイトメアだなんて名乗りやがって…。ぼくはそれから眠れなくなった。
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