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「今夜は満月ね」
櫻葉さんが空を見上げながら言った。
「ああ、そうだね」
「私、満月も好きよ。満月を見てると柳野くんを思い出すもの」
「何で?」
「あの満月の形がね、肉まんに見えて……。柳野くんが肉まんを美味しそうに食べてる顔を思い出すの。月夜に肉まん食べてる王子様って素敵じゃない?」
僕は櫻葉さんの顔を見ながらそれを聞いていて、思わずくくっと笑ってしまった。
櫻葉さんが不思議そうに僕を見る。
「なあに?」
「いや、あはは。何か分かんないんだけど、……ふふ、嬉しくって」
「?」
櫻葉さんがもっと不思議そうな顔をしたので、僕はますますおかしくて笑ってしまう。
「どうしたの、柳野くん?」
「ふふ、何でもないよ、何でも」
もう、何でこんなことがこんなに嬉しいんだろうなあ。
僕は櫻葉さんが楽しそうに話す顔が好きなんだ。
櫻葉さんが嬉しそうに想像を語るのを見るのが好きだ。
いつもは僕を不思議な気持ちにさせる櫻葉さんが不思議そうな顔をするのが好きだ。
月夜に肉まん食べてる僕が王子様だと言う、ちょっと変わったところが好きだ。
櫻葉さんが好きだ。
「櫻葉さん」
「なあに?」
「もっともっと聞かせてよ」
君の話が聞きたいんだよ。
ずっと聞いていたいんだよ。
「柳野くん……」
「手紙でも何でもいいから。会えなくなってもずっと聞かせてよ」
「……それって何だかプロポーズみたいね」
冗談めかしてふわりと微笑む櫻葉さんに僕はきっぱり言った。
「結婚しようよ、櫻葉さん」
「え……」
櫻葉さんが固まった。固まってる彼女をよそに、僕は聞いてみた。
「櫻葉さんは、僕との結婚生活を想像できる?」
僕の言葉に、櫻葉さんは顔をそらして少し俯く。その顔は少し赤い。
「……そんなの、毎日してるわよ」
「なら決まり」
月明かりが彼女の顔を照らす。赤く染まった顔を見るのは初めてだった。
明日が最後、その後はしばらく君の顔を見られなくなるけど、不思議と寂しくはない。会えなくても、君の話が聞けなくなったわけじゃない。
これからは君の手紙で、君の楽しい想像を聞こう。
そうだな、まずは……。
……理想の結婚生活でも。
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